相次ぐ不祥事で失点を重ねている財務省。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、今後も政権にとって不利な情報が、財務省から出てくると予測する。
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財務省バッシングが止まらない。森友学園への国有地払い下げに関する公文書改竄(かいざん)に続き、財務省が森友側に「(ゴミ撤去のために)トラック何千台も走った気がするといった言い方をしてはどうか」と、口裏合わせを求めていたことが発覚した。
財務省は鉄の結束を誇る“役所の中の役所”だ。官僚の自省への忠誠心も、他省庁と比べてずばぬけて高い。組織に尽くした者は昇進はもちろん、退官後の天下りも含めて手厚い処遇を受ける。それが同省の団結と忠誠心を支えている。
森友問題で時の人となった佐川宣寿(のぶひさ)・前国税庁長官、そして彼と同期の福田淳一次官もいかにも財務官僚という人物だった。
私は経産省時代に会計課の筆頭課長補佐として財務省と予算折衝を担当していて、何回かこのふたりと酒席を共にしたことがある。当時の経産省の幹部候補生たちは年に7、8回、財務省主計局のエリート主査たちと宴会をやっていた。もちろん、費用は経産省側持ちの接待だ。
入省年次で2、3年次にわたって集まるのだが、80年入省の私が幹事をする会でも、82年の佐川、福田両氏と時々顔を合わせたものだ。
佐川氏は出しゃばらず、地味な感じだったが、一方の福田氏は上から目線で先輩の前でも大声で話し、飲み会好きという感じだった。どうも、それは次官に出世しても変わらず、今でも毎晩派手に飲み歩いていると聞く。
このように、良くも悪くも日本の中枢を支える官僚らしい官僚が集まっているのが財務省だ。そんな役所が次々と失点を重ねているように見えるが、同時に、明るみに出た情報は安倍政権に不利なモノばかりだ。
この状況を「財務省が安倍政権に仕掛けたバトルだ」とする見方がある。消費増税を2回も延期した安倍首相に対して、19年10月に予定される増税を延期しないように牽制(けんせい)しているのではないかというのだ。
ただ、私は、これは官僚が反乱を起こしているというよりも、官僚の政権への忠誠心が微妙に変化したと受け止めるべきだと考えている。
7月の人事は安倍首相にとって鬼門
きっかけは佐川氏の証人喚問である。この喚問で安倍政権は露骨なトカゲのしっぽ切りを演じた。公文書改竄の全責任を佐川氏に押しつけてしまったのだ。
それを見て政権に対する霞が関の忠誠心の潮目が変わった。「忖度(そんたく)も限度を超えると、政権にかばってもらえるどころか、佐川前長官のように天下の極悪人扱いにされかねない」と、官僚たちが警戒するようになったのだ。
ただし、忠誠心の潮目の変化は造反ほどのインパクトはなくても、安倍政権にとっては痛手となる。以前のように役所が一枚岩になって支えようとか、ましてや、違法なことまでして安倍政権を守ろうというムードはなくなってしまうからだ。
7月には霞が関は人事異動のシーズンを迎える。安倍政権はそれを梃子(てこ)に官僚を押さえつけるつもりだろうが、少なくとも人事が終われば、新任者の中には保身から次官などに問題を報告する者も出てくるだろう。そうなると省内で責任の押しつけ合いになり、亀裂が生じてリークという事態もありうる。
つまり、今後も安倍政権を悩ます「不都合なブツ」が出てくる可能性は高い、ということだ。7月の人事は安倍首相にとって鬼門になるかもしれない。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中