6月10日に投開票となる新潟県知事選。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、この選挙が安倍政権の命運を左右すると注目する。
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新潟県知事選(5月24日告示・6月10日投開票)が気にかかっている。
今の野党に安倍政権を退陣に追い込む実力はない。できるとしたら、それは自民党だけだろう。安倍晋三首相のままでは国民の支持を得られないと判断し、トップの首だけをすげ替えて政権与党の座を死守するというシナリオだ。そして、その動向のカギを、新潟県知事選が握っている。
もし、この選挙で自公が支持する前海上保安庁次長の花角英世(はなずみ・ひでよ)候補が、野党の推す前新潟県議の池田千賀子候補に敗れたとしよう。当然、自民党内には安倍政権では地方選挙で負ける可能性が高いと動揺が走る。来春の統一地方選で勝てないとの不安が高まれば、党の地方組織から今年9月の総裁選で、安倍首相に代わる新たな党の顔を選ぶべきだとの声が広がるはずだ。
そうなると、自民党の国会議員はのんびりとはしていられない。地方議員は来夏の参院選や、次期衆院選の選挙運動を地元で支える基盤だ。その地方議員が落選すれば、国会議員は万全の選挙戦ができず、自分の当選も危うくなる。それを嫌い、地方票だけでなく、国会議員票までもが石破茂氏など、安倍首相のライバル候補に流れることになれば、安倍3選はおぼつかない。
それだけに、安倍政権を支える自民主流派にとって、新潟県知事選は負けられない戦いだ。実力者の二階俊博幹事長が選挙戦を仕切り、業界団体への締めつけを強めているそうだ。
花角候補の公約も狡猾(こうかつ)だ。元国交官僚のキャリアを最大限にアピールできる「日本海縦貫新幹線」の整備をぶち上げる一方で、柏崎刈羽原発については「3つの検証」(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画)をしっかり進めてその結果を見極めると、一見、再稼働に慎重ともとれる姿勢を打ち出している。これにより、脱原発姿勢の明確な池田候補の独自色を打ち消そうという姑息な作戦だ。
女性票が伸び悩んでいる池田候補に提案
これが功を奏したのか、自民が実施した2度の情勢調査で、1度目は花角候補の3ポイントリードだったものが、2度目には6~7ポイントへと差が拡大したという。
対する池田候補は善戦しているものの、女性票が伸び悩んでいると聞く。「3つの検証」の終了後に、原発再稼働への民意を県民投票などで問うなどの公約には高い支持が寄せられているものの、さらなるテコ入れのためには花角候補の「日本海縦貫新幹線」整備プロジェクトのお株を奪うような経済政策の公約を追加することも必要かもしれない。
それならば、例えばこんな公約はどうだろう? 柏崎刈羽原発を廃炉にすれば、これまで原発からの電力を首都圏へと送っていた巨大な送電線網が空く。その送電線網を利用して、太陽光や風力など、原発数基分の再生可能エネルギーを作って首都圏に供給するのだ。
首都圏に電力を売れば、新潟の地域経済は潤う。ポイントは、これをただの夢物語としてではなく、具体的数値や目標年次を入れた公約として打ち出すこと。クリーンなビジネスだから、脱原発派にアピールできる上に、生活や経済に不安を感じて自民候補に流れそうな一部の女性層も引きつけられる。
選挙戦はこれから終盤戦を迎える。接戦を制するのは花角氏か池田氏か。要注目だ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。近著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中