どう見てもメチャクチャなのに、最近の支持率はむしろ回復傾向。トランプ大統領を支える全米最大の宗教勢力は、なぜ米大使館の移転に喝采を送ったのか?
『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る!
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「科学の国アメリカに、精神論の国・日本が敗れた」
第2次世界大戦をふり返るとき、そんなイメージを持つ日本人は少なくないと思います。そして、その後も現在に至るまで、なんだかんだ言ってもアメリカは最も現代的であり、理性的な国である、と。
しかし、これは戦後の日本が復興していく上で定着した過剰なアメリカ礼賛(らいさん)なのかもしれません。実際のアメリカは常に理性的なわけではなく、時代によって「理性・科学」と「宗教」の間を行ったり来たりしているのですから。
イスラエル建国70周年を迎えた今年5月14日、アメリカは在イスラエル大使館を商都テルアビブから、エルサレムへと移転しました。言うまでもなく、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教においても“聖地”とされる場所。ここに大使館を置くことは、エルサレムがユダヤ教国家イスラエルのものであると認めるに等しい行為です。当然、パレスチナなどの人々は激しい抗議行動を起こし、その過程で多くの犠牲者も出てしまいました。
トランプはなぜ、わざわざ現状を変更し、混乱を招くようなことをしたのでしょうか。それは、一説には全米人口の約4分の1を占めるともいわれるキリスト教プロテスタントの一派で、全米最大の宗教勢力である「福音(ふくいん)派」へのアピールにほかなりません。
新約聖書の記述を重んじる福音派のなかでも、特に“ガチンコ”な人々は「エルサレムにイエス・キリストが復活して軍を率い、ハルマゲドン(最終戦争)が起こる。その後、正しき者たちの千年王国が到来する」という「ヨハネの黙示録」をあつく信じています。エルサレムで行なわれた米大使館の開館式でも、アメリカから招かれた福音派の宣教師が「トランプ大統領の偉業は1000年歴史に残る」とスピーチしました。
信教の自由は保障されるべきですが、それにしても言論の自由が保障され、闊達(かったつ)な議論が行なわれるアメリカで、なぜ政治が原理主義的な宗教の主張と軌を一にするのか? 歴史を遡(さかのぼ)ってみましょう。
アメリカの転機はソ連が世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功したこと
信じられない話ですが、1920年代にはテネシー州で進化論の是非を争う裁判が行なわれ、進化論の提唱者が敗訴しています。100年足らず前の時点で、アメリカは紛れもなく「宗教国家」でした。
その背景には、19世紀の南北戦争の後遺症があります。戦いに敗れた南部の白人たち――それまで黒人を奴隷として扱ってきた白人たちは、ルサンチマンのよりどころを宗教に求めました。自分たちは神に試されている、だから負けたんだ、いつか必ず…という深層心理が広がったのです。
こうした人々は、政治家から見れば大きな票田でした。50年代あたりまでは、しばしば彼らの宗教心を露骨にあおり立てる大統領候補が出馬し、それによって偏った思想はますます強固になっていったと言えるでしょう。
そんなアメリカの転機は、57年にソ連が世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功したこと。衝撃を受けた米政府は科学教育に莫大(ばくだい)な予算を投じ、これが科学大国の礎となりました。
そして、科学のいい意味で懐疑的な精神を学んだ若者たちがそのマインドを社会や政治にも向けた結果、公民権運動、フェミニズム、ゲイ・ライツ・ムーブメントなどへ連鎖。リベラルな機運は、科学教育と共に進んでいったわけです。この頃は、キリスト教諸派も基本的に政治と距離を取り、すみ分けをしていました。
◆福音派の復活はレーガン政権から――この続き、後編は明日配信予定!
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送、隔週土曜出演)、『ザ・ニュースマスターズTOKYO』(文化放送、毎週火曜出演)などレギュラー多数。
■2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!