「政権与党の思惑だけで、カジノ法案の成立を急ぐ愚を犯すべきではない」と語る古賀茂明氏

6月15日、衆議院内閣委員会でカジノ法案が成立した。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、この法案に埋め込まれた多くの"地雷"について指摘する。

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「カジノ法案(IR整備法案)」をこのまま成立させていいのか? 安倍首相は「世界最高水準のカジノ規制を導入する」と豪語するが、どうにも怪しい。

例えば週3回、月に10回までの入場制限は、実質的に週6日間のカジノ通いが可能なザル規制だ。どういうことか?

法案では一回の入場時間は"24時間"となっている。ということは月曜午後5時に入場した客は火曜日午後5時までカジノに滞在できる。その後、カジノ内のホテルに1泊し、水曜のお昼頃に起きて腹ごしらえをし、その日の午後5時に2回目の入場をすれば、木曜の午後5時まで再びカジノ遊びができる。

さらに翌日の金曜日に同じスケジュールでリミットとなる週3回目の入場をすれば、その客は月曜から土曜日まで週6日間、カジノざんまいの日々を過ごせる。翌週以降、残り7回の入場を同じように消化すれば、1ヵ月で20日以上カジノに入り浸れる計算だ。極端な例に思われるかもしれないが、そういったことができないよう、制度的に外堀を埋めなければ正しく機能する規制になるとは言えない。

特定資金貸付業務の導入もリスキーだ。これは訪日外国人と、預託金を積んだ日本人富裕層を対象に、賭け金をカジノ業者が貸し付けるルールだ。

私は経産省時代、消費者信用を担当したことがあるのでわかるが、貸金業者は取りっぱぐれの恐れのある客には貸さず、返済力のある客に保有資産ギリギリまで貸し込むのが常だった。

日本版カジノは客の8割近くが日本人になると想定されている。もともと特定資金貸付業務は外国のVIP客が多額の賭け金を持ち歩かないで済むよう、海外のカジノが採用した制度なのに、日本人客も利用可能とするのでは中間層の国民が賭け金の返済に苦しむことになりかねない。

法案では入場時にマイナンバーを提示することになっており、それをもとに客の資産情報を調べれば、カジノ業者は資産ギリギリまで貸し込むことができるのだ。

特定資金貸付業務は富裕層を対象とすると政府は力説するが、実際には持ち家があるが収入は年金だけの高齢者などをカジノに誘引し、その資金をむしり取ることになるだろう。

そのほかにもカジノ面積の規制が不十分な点や、カジノを監督する管理委員会にカジノ事業者を選任できるなど、カジノ導入には"地雷"がたくさん埋め込まれている。

驚くべきは法案に条文として記載されず、法成立後に政令などで定める条項が331もあることだ。政令だから国会のチェックは必要なく、政権与党や内閣府、国交省など、カジノを所管する利権官庁が事業者とグルになって、カジノの運営ルールを決めるという仕組みになっている。

これらに加え、海外マフィアを日本に呼び込むリスクも高い。

これだけのリスクがありながら、政府が法案成立を急ぐ背景にはカジノをアベノミクスの目玉にしたい安倍自民と、悪評高い法案は早期に仕上げ、来春の統一地方選への悪影響を最小限にとどめたい公明党の思惑がある。

だが、カジノはギャンブル依存症など、深刻なデメリットを伴う。カジノ合法化には国会での熟議と幅広い国民の合意が欠かせない。政権与党の思惑だけで、カジノ法案の成立を急ぐ愚を犯すべきではない。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。近著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中