ミス・アメリカの水着審査廃止について、「この大きな波はいずれ日本にも到達するはず」と語るモーリー氏 ミス・アメリカの水着審査廃止について、「この大きな波はいずれ日本にも到達するはず」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカで最も保守的な「ミス・アメリカ」コンテストの水着審査廃止について語る。

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1921年の開始以来、100年近くの歴史を誇る「ミス・アメリカ(Miss America)」が、今年9月開催予定のコンテストから水着審査を廃止し、「外見ではなく、知性やそれまでの実績で判断する」と大幅な方針転換を発表しました。

アメリカで最も保守的な男性視点主体のコンテストで、いわばセクシズムの聖域だったミス・アメリカの"目玉コンテンツ"の廃止には、米国内でもさまざまな意見が飛び交っています。

言うまでもなく、背景には#Me Too運動があります。水着審査廃止の決定を下したのは、女性として初めてミス・アメリカ評議会の会長に就任したグレッチェン・カールソン氏です。

彼女は1989年にミス・アメリカに選ばれ、その後は「FOXニュース」のキャスターとして活躍。そして2016年、FOXニュースの前CEOロジャー・エイルズ氏をセクハラで訴え、親会社の21世紀FOXから謝罪と2000万ドル(約22億円)の和解金を勝ち取り、#MeTooの火つけ役のひとりとなりました。

そのカールソン氏がミス・アメリカの会長に就任したのは今年1月。前会長ら複数の幹部が、メールで女性に対してセクハラ発言をしていたことがリークされ、そろって辞任したことを受けての動きでした。運営団体は体質改善と自浄作用をアピールするため、カールソン氏に白羽の矢を立てたのです(新体制では幹部全員が女性となりました)。

#MeTooの本質は、セクハラ・パワハラなどあらゆるハラスメントの根底にある権力構造(パワーストラクチヤー)に対する疑義です。女性に決定権も責任も与えず、男性社会に従属させる―そんな構造を世界中のフェミニストたちは長年批判してきましたが、男性はもとより当の女性たちですら、やっかいな議論やそこで生まれる悪意、反動に巻き込まれたくないとの思いから、これまでは突っ込んだ言及を避けてきた。

だから一部のフェミニストらは、時として先鋭化するしかなかったわけですが、#MeTooは社会的な地位や人種を超え、声を上げた勇気ある人を埋もれさせないよう連結し、大きな動きとなりました。

今回の話にインパクトがあるのは、かつてミスコンを勝ち取った張本人であるカールソン氏が「この価値観はおかしい」と先頭に立っている点。いうなれば、旧ソ連でペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を推し進めたゴルバチョフ元書記長が出現したときのような、激動の始まりを予感させます。

もちろんアメリカでも行きすぎだと批判する人はいますが、既存の権力構造を水平化させるには、着火剤をどんどん投入するしかない。湿ったマッチをいくらこすっても火がおきないことは過去の歴史が証明しています。

日本社会では欧米以上に、既存の権力構造を受け入れて"良い子"であろうとする人が大勢を占めますし、多くの政治家も口では「女性が輝く社会」などと言いつつ、#Me Tooの本質を理解していないように見えますが、この大きな波はいずれ日本にも到達するはずです。

今後はあらゆるジャンル――例えば政治や公務員の世界、スポーツ界、あるいはメディア業界でも動きが出てくるでしょう。そして、最後の"聖域"はおそらく芸能界。ここまで波が及んだとき、日本社会の激動が始まるのではないかと僕は感じています。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。

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