「アメリカは世界の食い物にされ、貿易赤字を拡大させてきた」というトンデモ理論を振りかざすトランプ大統領。米市民の生活に直結する対中輸入品に関税をかける暴挙に出た

ついに米中貿易戦争の幕が切って落とされた。

7月6日、米トランプ政権が340億ドル(約3.8兆円)相当の中国製品に25%の追加関税を発動。すると中国も即日、同規模の米国製品にやはり25%の追加関税を課す報復へと踏み切ったのだ。

だが、貿易戦争に勝者はない。経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が言う。

「アメリカが追加関税をかける340億ドルの輸入品のうち、200億ドル分は米企業などの外資が中国で生産したもの。つまり、追加関税で中国の対米輸出が減ると、米企業も被害を受けるんです。

その上、中国からの輸入品価格が上がることは米消費者のサイフを直撃するし、もちろん中国の報復関税によって対中輸出もダメージを受ける。まるでブーメランのようなもので、まったく不毛です」

実際、米中双方は早くもダメージを受けている。上海株は対米輸出減少による中国企業の業績悪化を嫌って、今年1月から約2割も下落。アメリカでも大豆輸出の約6割を占める中国向け販売が減ると予想され、9年ぶりの大豆価格暴落に泣いている。

追加関税の応酬によって米中貿易のコストが10%上昇すれば、世界のGDPが1.4%減るとのOECD試算もある。超大国同士の貿易戦争がエスカレートすれば、世界経済が沈没しかねないのだ。

2016年の大統領選当時から対中貿易赤字の削減を叫んできたトランプ大統領だが、その強硬姿勢は今年11月の米中間選挙までとの見方も当初は根強かった。全国紙経済部デスクが解説する。

「追加関税措置で巨額の対中貿易赤字を減らし、国内の企業と雇用を守ると訴えて支持率を上げようというのがトランプの作戦。中間選挙に勝利すれば矛を収め、中国・習近平(しゅう・きんぺい)主席と"手打ち"になると目されていました」

ところが最近では、その予想は外れて貿易戦争が長期戦の様相を帯びていると懸念する声も少なくない。エコノミストで甲南大非常勤講師の金俊行(キム・ジュネン)氏もこう指摘する。

「トランプ政権の目的は、単に対中貿易赤字を解消することではありません。真のターゲットは、ハイテク産業をめぐる米中の覇権争いに勝利することなんです」

中国は15年に独自の産業政策「中国製造2025」を打ち出した。次世代情報技術やロボットなどの重点分野を発展させ、25年までに製造強国を目指すというものだ。

「この『中国製造2025』をアメリカは警戒しています。17年の国際特許出願数を見ても、1位のアメリカが5万6624件だったのに対して、2位の中国は4万8882件にまで迫っている。このままではハイテク産業でも中国に追い抜かれ、世界経済の覇権を失いかねないとアメリカは恐れているのです。

トランプ政権が追加関税を発動するにあたり、『中国はアメリカの知的財産権を盗んでいる』としきりに主張してきたのはそのためです。だから、中間選挙に勝利してもトランプ政権はすぐに『撃ち方やめ』とはならない。『中国製造2025』が続く25年まで、中国と貿易戦争をする可能性があるのです」(金氏)

実際、トランプ大統領は最初の340億ドル、今月中にも発動されるプラス160億ドルに加え、9月にもさらに2000億ドルの中国製品に追加関税をかけると吠(ほ)えている。

★『週刊プレイボーイ』31号(7月14日発売)「リーマン・ショック以来の衝撃で日本経済はマイナス成長へ......!?『トランプvs中国』貿易戦争の返り血で日本が滅ぶ!」より