「トランプ米大統領にとって唯一絶対の判断基準は『アメリカが(短期的に)得するように見えるかどうか』だけ」と指摘するモーリー氏 「トランプ米大統領にとって唯一絶対の判断基準は『アメリカが(短期的に)得するように見えるかどうか』だけ」と指摘するモーリー氏

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、米朝会談で見えたトランプ流"新世界秩序"について語る。

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史上初の米朝首脳会談で具体性のない共同声明にサインをし、その後の単独会見で誇らしげに語るトランプ米大統領。その姿を見て、彼の頭の中にある"新世界秩序"のようなものがはっきり見えた気がしました。

彼にとって唯一絶対の判断基準は「アメリカが(短期的に)得するように見えるかどうか」だけ。長期的な世界の平和や、人権・人道といったものには一切興味がなく、アメリカや自身にとっての"目に見える利益"だけを考えているのだと思えば、在韓米軍の縮小・撤退に言及したのもある意味当然です。

「なんで朝鮮民族の"兄弟ゲンカ"の間に俺たちが入らなきゃいけないんだ。そんなムダなことをやめればコストカットになる。韓国は前線基地として重要だといっても、どうせ戦争になればミサイルが飛んでくるんだから、米本土さえ守っていればいい。同盟国とはいえ外国、それも白人国家ではないアジアの国に対してアメリカの若者の血と国民の金を提供する必要などない......」

これくらい短絡的なことを考えていてもおかしくはありません。

トランプにとって大事なことは米国内経済の立て直しであり、これまでアメリカが世界平和や民主主義の普及・拡大のために負担してきたコストを最低化させること。

すべての"取引"はそのためにあります。反民主的な国家や独裁政権の人道に反する行為にも目をつぶり、それぞれの親玉と話をつければいい。北朝鮮だけでなく、ロシアや中国に対しても同様です。

そこに待っているのは弱肉強食の仁義なき国際社会です。世界は米中露の"3極"で運営され、「トランプ組」「習組」「プーチン組」がそれぞれの縄張りを統治して、傘下の中小国が二次団体・三次団体のように親分に従う(欧州諸国ですらその扱いです)。

同盟関係という水平の概念は消失し、"舎弟関係"に近くなるでしょう。割を食うのはより弱い国家や、迫害されている少数民族です。

当然、集団的自衛権という考え方も否定されます。すでにトランプの言葉の端々からうかがえるとおり、NATO(北大西洋条約機構)に多額の資金を支出するくらいなら、ロシアと直接取引したほうが手っ取り早い―優秀なビジネスマンはそう考えているようですから。

逆に言えば、もしロシアや中国のような大国の脅威から自国を守ってほしいのなら、それに見合う金を払うしかない。払わなければ引くだけ。金でしか動かない警備会社、あるいはヤクザのみかじめ料のような構造です。

これは日本にとっても同じことで、日米同盟ですらトランプにとっては「ムダなコスト」でしかありません。在韓米軍の縮小・撤退に続いて、在日米軍の問題も必ず議題に上がってくるはずです。警備してほしいなら相応のコストを支払え。イヤなら中国が来るぞ。そういう恫喝(どうかつ)を平気でしてくるでしょう。日本はあくまでも商売相手のひとつなのです。

「なんだかんだでアメリカが守ってくれる」という前提の下で反米や護憲を叫んできた人たちも、真剣に自国防衛というものを考える必要があります。アメリカという世界最大の後ろ盾を失ったとき、何が起こりえるのか。新しい秩序に対応しうる国家とはどういうものか。タブーなしで議論すべきときが来ています。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。

2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した待望の新刊書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!