『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、安倍政権による社会人の学び直し支援拡充について、問題提起する。

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「人づくり革命」の一環として、安倍政権が社会人の学び直し支援を拡充するという。

これまで政府は看護師や介護福祉士など、専門職の資格取得を目指す社会人に学費の5割(上限年40万円)を3年間給付するなどの支援を行なってきたが、助成期間をさらに1年延ばして最大4年にする。

労働者にとって、個人のスキルアップにつながる学び直しは大切だ。新しい技術、資格を取得すれば、勤め先での待遇もよくなる。場合によっては高給を提示され、他社へ転職することも可能だろう。

その学び直しを行政が支える制度を拡充するというのだから、働く人たちにとって朗報に聞こえる。

だが、そもそもこの政策には重大な欠陥がある。それは制度の対象者が「原則3年以上、雇用保険料を納めた者」に限定されている点だ。給付する学費は雇用保険積立金から拠出されているため、保険料を払っていない人には給付できないのだ。

しかし、本当にそれでいいのだろうか? 2017年の非正規雇用者数は2036万人で、日本の全労働者の373%を占めている。そのかなりの部分は雇用保険制度とは縁のない働き方を強いられている人たちだ。

パートタイム労働に従事し、雇用保険の対象者にカウントされないケースもあれば、本来は対象者なのにブラック企業で経営者が雇用保険に無関心というケースもある。

学び直し支援を最も必要としているのはこうした非正規雇用者である。非正規雇用者はスキル不足などで労働市場に評価されず、正社員採用されにくい。そこで学び直しをしたいと思っても、低収入ゆえに高額な学費を払えない人も多いはずだ。

そんなときに給付支援があれば、スキルアップの機会を得られ、新しい仕事を獲得できる。そうした人々が増えれば個人の生活が向上するだけでなく、社会全体の生産性も向上し、日本の成長にもつながる。

ところが、制度利用できる対象者を雇用保険加入者に限るというのでは、本当に支援を必要とする非正規雇用者が学び直しから排除されてしまうことになる。これでは「人づくり革命」どころか、労働者間の格差を拡大することにもなりかねない。

せっかくの学び直し支援がこんな制度になったのにはワケがある。国の雇用保険による積立額は、失業給付の減少で、一番少なかった02年の約4000億円から60倍にも膨れ上がり、15年度末に6兆円を超えてしまった。

このため、保険料率は17年度から3年間限定で0.8%から0.6%に引き下げさせられたが、積立金は減らず、このままでは、20年度以降、さらなる引き下げを求められかねない。

だが、厚生労働省にすれば、それは避けたい。何もせずに入ってくる保険料収入を減らしたくないし、積立金運用には利権が絡んでいるからだ。そこで保険料率の引き下げをしない方便として、だぶついた積立金を学費給付の原資として活用し、若干だけ減少させる方途を厚労省がひねり出したのではないか? 私はそうにらんでいる。

学び直しのチャンスは誰にでも平等に与えられるべきだ。「人づくり革命」が看板倒れでないことを証明するためにも、安倍政権は雇用保険に加入できなかった労働者向け支援の抜本的強化策も打ち出すべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中