自民党の石破茂氏が9月の総裁選への立候補を正式に表明。「正直、公正、石破茂」というキャッチコピーを掲げ、反安倍路線を明確に打ち出した。石破氏の総裁選出馬は6年ぶり。
タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。
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小泉純一郎元首相が小泉ブームともてはやされていた頃、写真集を出したんですよね。番組の資料として手渡されたそれを開けたら最初に「あなたが私のファーストレディです」てなことが書いてあって、その場でパタンと閉じて放り出しましたけど、それぐらい女性ファンが多かったってことなんでしょう。
ライオンヘアをなびかせてテレビニュースにピタッとはまる短いフレーズを連発する姿に「そうだ、こんな総理が見たかった!」とときめいた人も男女問わず多かったんでしょう。
自民党内の"抵抗勢力"と闘うヒーローに酔いしれた人々は、祭りだ祭りだと郵政選挙にも張り切って投票して、構造改革の痛みに耐えて放置プレイでも頑張りました。画面映えする人の言うことなら素直に聞いちゃうなんて、有権者って、視聴者って、なんてお人よしなんでしょう。
そういえばかつて安倍さんも「若くてカッコいい」「ハンサム」と言われていたっけ。で、今は小泉進次郎さんですよ。私の周囲にも「会ったらステキだったあ」とハートを射抜かれた人が少なくありません。私は御目文字叶ったことがないから知らないけど、政策うんぬんよりも「あんなイケメン総理ならいいのに!」と、ときめいてしまうようです。
劇場型政治といわれた小泉政権。今や政治はテレビ報道と一体化して、国会の議論の場でも、質問者はテレビカメラを意識して振る舞うように。見せ場はすぐに動画サイトに投稿されて、SNSで拡散されます。でも残念ながら議論の中身よりも"絵面"に気を取られるのは人の性(さが)。だからこそ、半笑いでめんどくさそうに話を聞いている与党側の政治家の態度の悪さにも目がいくわけですが。
よくテレビに出た有識者が「親戚も友達も服や髪型についてのコメントばかり。何を話したかなんて誰も聞いてなかったみたい」とぼやいているけど、本当に人は視覚情報に弱いんです。
いっそ新聞社の世論調査でも、政治家の支持率なんかを調べるときには選択肢に「容姿」って選択肢を用意したほうがいいですね。「人柄」という選択肢もあるくらいだからぜひ。会ったこともないのに勝手に抱く印象を聞く点では同じでしょう。
さて、9月の自民党総裁選。この頃は傲岸不遜(ごうがんふそん)に拍車がかかり、絵に描いたような悪相になってきたものの、依然見た目支持率が高そうな安倍総理に対抗するのは、かねて吉田戦車の『伝染(うつ)るんです。』のかわうそ君に似ているといわれる石破 茂さん。「正直、公正、石破 茂」というキャッチコピーはそのまま「不正直、不公正、安倍晋三」と読ませるわかりやすさです。
政治の私物化を許さないという志が、「石破さんねえ......進次郎さんはすてきなんだけど」とか言う相変わらず浮かれた人々にも届くことを祈ります。
●小島慶子(こじま・けいこ)
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。近著に『絶対☆女子』『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(共に講談社)など