「拠って立つもののない世界が目の前に来ている――日本にその覚悟はあるでしょうか?」と問うモーリー氏

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソン米ロ首脳会談で見えた既存の世界秩序の崩壊と「在日米軍なき世界」の可能性について語る。

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7月中旬にフィンランドの首都ヘルシンキで開催された米ロ首脳会談。ロシアのプーチン大統領と共に会見に臨んだ米トランプ大統領の目に余る"ロシア寄り発言"(自国の情報機関よりロシアを信用するかのような発言など)に、メディアのみならず共和党の議員からも怒りの声が上がりました。

重鎮のジョン・マケイン上院議員に至っては、「記憶にある限り、米大統領による最も恥ずべき振る舞い」と痛烈に批判しています。

しかし、その発言後でさえも、トランプの国内支持率に大きな変化はなく、ある調査では42%が「大統領の仕事ぶりを評価」しているとのこと。

一部の白人層がトランプを支持し続ける理由、そしてロシアの"情報兵器"が彼らにずる賢くリーチして米大統領選に影響を及ぼした可能性については何度も述べてきたので、ここで繰り返すことはしませんが、この数字が今秋の中間選挙まで維持されるようなら、トランプはいよいよ2年後の大統領選における再選をも視野に入れてくるはずです。

それは同時に、既存の世界秩序がガラガラと音を立てて崩れ、アメリカ、ロシア、中国という3大国が支配する"新世界"へと本格的に移行することを意味します。日本における政治議論の多くは"コップの中の嵐"を一大事だ!と騒ぎ立てているにすぎませんが、ふとコップの外に目を移せば、世界はとんでもない大嵐になっていたのです。

例えば、在韓米軍の撤退の可能性について。韓国では南北統一を悲願とする文在寅(ムン・ジェイン)大統領が支持をさらに広げ、ホワイトハウスでは在韓米軍の急激な縮小に反対する"常識派"のマティス国防長官に辞任の噂がちらつき始めた。

米国外に展開する米軍を撤収させたいトランプの意向が、東アジアに限って適用されないと考えるのは都合のよすぎる話です。

この流れで在韓米軍が撤退すれば、朝鮮半島は"フィンランド化"する可能性が高い。フィンランド化とは、旧ソ連(現ロシア)と国境を接するフィンランドが第2次世界大戦後にソ連と友好協力相互援助条約を締結し、"事実上の東側"として行動することと引き換えに、独立や資本主義を維持したことを指します。

もちろん、現代の朝鮮半島においてソ連にあたる存在は中国。「統一朝鮮」は事実上、中国の属国として振る舞うだろうという見立てです。

その場合、在日米軍の撤退もドミノ倒し的に進行するかもしれません。「中国ともロシアとも交渉(ディール)でうまくやればいい」というトランプに対し、中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が「東アジア全土と南シナ海が欲しい」と大胆に提案した場合、どうなるか?

トランプは「その代わり、貿易赤字を全部チャラにしろ」と迫り、交渉の結果、在日米軍の事実上の撤退が見えてくるというシナリオは決して荒唐無稽(こうとうむけい)ではありません。

すると、在日米軍ありきの日本国憲法9条の「あら」が誰の目にも明らかになります。中華帝国とロシア帝国と、機能不全に陥ったアメリカ―3つの大国に挟まれ、日本は戦後初めて自由になる。皮肉にも、それは右も左も夢見ていた「対米従属からの自由」にとどまらず、ノアの洪水のように多くの犠牲を伴う真の自由ですが。拠(よ)って立つもののない世界が目の前に来ている――日本にその覚悟はあるでしょうか?

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!