相手を殺したり、わかりやすく傷つけたりはしないが、気づかないうちに脳や内臓を損傷する......。そんな恐るべき"新兵器"が、ついに外交の裏舞台で使われ始めたようだ。
中国で昨年から今年4月にかけて、米領事館などの外交官11人が原因不明の頭痛、聴覚障害、吐き気、目眩(めまい)を訴え帰国した。また、16年から17年にかけてキューバの米大使館でも、21人の職員が似たような症状を訴え、帰国を余儀なくされている。
その原因を調べていた医師がこのたびまとめた報告書によれば、なんと在外公館職員らは「マイクロ波兵器」による攻撃を受けた可能性が高いという。この聞き慣れない兵器について、軍事評論家の毒島刀也(ぶすじま・とうや)氏が解説する。
「このような指向性エネルギー兵器は、冷戦時代から東西両陣営で研究されてきました。旧ソ連のモスクワなど共産圏にあった米英の大使館にも当時、似たような攻撃が行なわれたとされています」
では、その原理は?
「マイクロ波攻撃を受けると、たとえるなら電子レンジの中にさらされたような状態になります。被害は周波数によって異なり、米軍が実用化している暴動鎮圧タイプ(95GHz[ギガヘルツ])は一瞬、皮膚表層が熱くなり、火傷(やけど)こそしないものの、皮膚細胞の中の水分が沸騰して苦痛を与えます。
一方、今回使われたと思われる体内に到達するタイプ(1~6GHz)は、人体にどの程度影響があるのか正確にはわかっていませんが、長時間照射されると脳や内臓などにダメージを受けます。
しかし目に見えず、すぐに症状が出ないので、やられたと自覚できないのが特徴。兵器化にあたっては、『後遺症を残さずに"耐え難い苦痛"を与えられる出力と条件』を探ることに相当な時間が費やされたと思われます。人体実験をいとわない中国なら、かなりのものができているはずです」(毒島氏)
その"耐え難い苦痛"とは、心拍数の高まり、内臓機能の低下、睡眠障害、倦怠(けんたい)感、不安や恐怖感、幻聴......など、多岐にわたるという。
また、冷戦期にはワンルーム程度の大きさが必要だったマイクロ波兵器だが、2007年に米レイセオン社と米軍が共同開発した軍事車両搭載タイプ(1km先の目標に照射可能)が、2010年にはアフガニスタンに短期間配備されている。それからさらに8年たったことを考えれば、現在ではかなり小型化されている可能性が高い。
「個人などを狙った低出力かつ狭い範囲を対象とするタイプなら、旅行用のスーツケースに収まるくらいには小型化されているかもしれません」(前出・毒島氏)
つまり、もう人間がどこへでも運べる大きさになっている可能性もあるのだ。今回、米在外公館が狙われた背景には激化する米中貿易戦争があるとみられるが、今後はどの国の人間が被害に遭ってもおかしくない――。