『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、自民党総裁選で再任が決定した安倍首相が意欲を見せる年金制度見直しについて提言する。

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安倍首相が年金制度見直しの一環として、定年延長と年金受給開始年齢の見直しに意欲を見せている。

年金制度がスタートした1961年の平均寿命は男66歳、女71歳だった。しかし、長寿化で2016年には男81歳、女87歳になっている。年金を受け取る期間が大幅に延びているのだ。

さらに、生産年齢人口が減り、当初は現役世代9.1人の保険料でひとりの高齢者を支えていたものが、今では現役世代2.2人でひとりの高齢者を支えている。抜本的な改革か大増税でもしない限り、いずれ年金制度が立ち行かなくなることは明らかだ。

そこで首相は、政府の「高齢社会対策会議」などで年金制度の見直しを指示した。具体的には、現在企業には65歳までの雇用義務があるが、これを70歳まで延長するとともに、60歳から70歳の中から選ぶ年金受給開始時期を(原則は65歳から)、70歳を超えても選択できるようにすることを検討するという。

70歳まで働ければ、老後を年金に頼る高齢者が減るだろう。さらに年金の繰り下げ受給(受給開始を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金額が上乗せされる)を奨励し、なるべく70歳以上まで年金をもらわないように促していく。これらによって年金財政への負担を緩和しようというわけだ。

年金制度を持続可能な仕組みに変えようとする安倍首相の目的は正しい。このままでは若い世代の負担はさらに重くなり、世代間の公平も保てなくなる。いずれ誰かが手をつけないといけない国民的課題だった。

しかし、その手法には疑問が残る。首相は「一億総活躍社会」のかけ声のもと、「生涯現役で働ける仕組み」「70歳でも元気に働ける社会」など、バラ色の夢を語るが、それは本当なのか?

雇用延長と年金の繰り下げ受給が定着すれば、年金制度の性格は様変わりしかねない。老後をフルにカバーする制度から、老後も働き続けることを基本とし、老衰や病気などで働けなくなったときだけ生活を保障する制度へと変わるのだ。「年金の失業保険化」と言ってもよい。

同時に高齢でも元気な間は働ける環境が整うことで、60歳以降も保険料を納めるべきだという議論につなげる狙いもある。年金でリタイア生活をエンジョイする健康な高齢者に「働かずに遊んでいるやつらに年金を払うな」などと、厳しい声が投げかけられることになるかもしれない。

首相は今の制度が持続可能でないことを率直に国民に語るべきだ。「高齢者が活躍できる社会」などという聞こえがいい言葉で、改革に伴う「負の側面」を隠そうとしてはならない。

「働ける間は働こう」「若い世代の負担を軽減するために、収入のあるうちは高齢者も保険料を出そう」「しかし、老いや病気で本当に働けなくなったときにはしっかり国が老後の面倒を見る。そんな年金制度に根本から変える時期が来た」「それがいやなら大幅な増税を受け入れよう」――そう国民に正直に語りかけ、少子高齢化社会に対応した新しい年金制度を再構築する論議をスタートさせるべきだ。

こうした大きな改革は長期政権にしかできない。自民党総裁の任期である21年9月末まで続投すれば、首相の在任期間は9年近くになる。国民から与えられたその政治的資産を生かし、首相には年金制度の抜本的改革にチャレンジしてほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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