3選を果たした安倍首相に立ちはだかる待ったなしの難題、それがアベノミクスの第1の矢「異次元緩和」の出口戦略だ。
日銀に国債を大量買い入れさせて市場にお金を"ドーピング"し、デフレ脱却をもくろむも5年続けて効果なしでさすがに限界。その副作用を抑えるために年金が使われるってホントなのか?
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■地銀の危機で表面化アベノミクスの限界
先に行なわれた自民党総裁選で3選を果たし、いよいよ「戦後最長」が視界に入ってきた安倍政権。石破茂氏との一騎打ちとなった総裁選期間中も「アベノミクス」の成果を強調し、「日本のデフレ脱却は目前!」と、自らの経済政策の効果に自信を見せた。
実際、10月2日には日経平均株価が2万4245円とバブル崩壊後の最高値をつけ、株式市場は絶好調だ。
だが2013年以来、日本銀行の「異次元緩和」を中心としたアベノミクスが2%の物価上昇率という目標を実現できないまま「日本経済のドーピング」を続ける一方で、その深刻な副作用が「限界」に近づいているという。
「総裁選では両候補ともアベノミクスの『出口戦略』についてほとんど触れませんでした。しかし、異次元緩和の限界は地方銀行の危機という形で表面化します。このまま問題を放置すれば金融危機が起こりかねません」と語るのは、元経産官僚で岡山県立大学客員准教授の宇佐美典也氏だ。
そもそも異次元緩和とはなんなのか?
「日銀が金融機関から大量の国債やETF(上場投資信託)を買い取る形でマネタリーベース(通貨の供給量)を拡大し、それによって2%程度の緩やかなインフレを引き起こそうというのが、アベノミクスの『異次元緩和』です。
その結果、2013年3月末時点で約138兆円だったマネタリーベースは18年8月末時点で約497兆円と、約3.6倍にまで拡大。これによって『低金利』と『円安』というふたつの効果が生まれました。
円安効果で海外売上比率が高い上場企業の利益が増えて株価が上昇。低い金利で潤沢なマネーが供給されれば経済活動が活発になり、さらに国債の利払い費も軽減される......というのが異次元緩和の狙いでした」(宇佐美氏)
しかし、この低金利政策には大きな副作用がある。
「長引く超低金利によって『お金を貸して金利を取る』という銀行の基本的なビジネスモデルが成り立たなくなっているのです。特に地銀は伝統的な貸出業務に頼っている部分が大きく、しかも衰退する地方経済が主な貸出先のため、厳しい経営状態に追い込まれている。シェアハウスへの不正融資で問題となったスルガ銀行の事件も、追い詰められた地銀の状況と無縁ではないと思います」
さらに宇佐美氏が続ける。
「このままでは近い将来、地銀の経営が破綻し、金融システム全体の危機を引き起こす可能性がある。それを避けるためには遅くても2020年には『金利引き上げ』に転じる必要があるでしょう。これがいわゆる『出口戦略』で、アベノミクスの核である異次元緩和の出口に向かうタイムリミットは着実に近づいているのです」
■俺たちの年金で国債を引き受ける?
それでは近い将来、日本が異次元緩和からの脱却に舵(かじ)を切り、日銀が利上げに転じた場合、その「出口」にはどんな「痛み」が待ち受けているのだろうか?
まずは株価などの市場に与えるネガティブな反応だ。すでに述べたとおり、アベノミクスの異次元緩和による円安が、ある種の「ドーピング薬」として株価を押し上げていた以上、出口戦略による金融引き締めが株安の動きを招く可能性は十分にあるだろう。
ちなみに、われわれの年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はここ数年、運用資金の25%前後を国内株式に投資しており、株価の大幅な下落は年金積立金の損失にもつながる大問題だ。
また、これまで大量の国債を買い取ってきた日銀がこれ以上国債を引き受けないとなると、誰かが日銀に代わって「国債の引き受け手」にならないと、国債の発行額を維持できなくなってしまう。
では、すでに400兆円を超える国債を引き受けてきた日銀に代わって、誰が国債の市場を買い支えるのか......?
宇佐美氏は「それができるのは、160兆円近い運用資金を持つGPIFしかない」と指摘する。
「将来の年金給付の原資となるGPIFの積立金は2035年前後から取り崩しが始まる見込みですが、今や世界最大の機関投資家といわれるGPIFが年金給付のため保有する株を継続的に売りに出して現金化するというのは現実的ではありません。
そのため、積立金の取り崩しに向けてGPIFのポートフォリオ(資産構成)の中で、株式の比率を下げ、国債の比率を上げていく必要がある。今は国債の金利が低すぎますが、金利がある程度上がればGPIFが運用資産として国債の比率を上げる理由にもなるでしょう」と宇佐美氏。
うーん、アベノミクスの出口戦略のために日銀に代わってわれわれの大事な年金資金で国債を買い支えるのか......。なんともフクザツな気分だが、国債の買い手がつかずに「暴落」という事態は避けたいだけに、それも仕方ない?
また、一度は「国債から株へ」の動きで株式への投資比率を増やしたGPIFが再び「株から国債へ」と逆の動きを見せたときに、株式市場が過剰反応をしないかも心配だ。
もちろん、ここでも株価急落は「年金積立金の減少」につながることになる。何をやっても巨大な影響力をもってしまう"巨象"GPIFならではの苦悩だ。
アベノミクス出口戦略の余波はこれだけではない。日銀が抱えるETFはバラして処分? 最大の痛みは国家財政の破綻? 『週刊プレイボーイ』43号(10月6日発売)では、総裁選では語られなかった安倍政権の仰天シナリオも追及している。