『週刊プレイボーイ』で、政界のタブーと既得権益に斬り込む「政界斬鉄剣!!!」を連載中の元・大臣秘書官の池田和隆(いけだ・かずたか)氏は、河野太郎外相がアフリカ開発会議で示した方針は、中国が東南アジア諸国を経済的にのみ込むことまで肯定するような爆弾発言だったと指摘する。
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池田 今回は、日本の未来にとってかなり重大なことなのに注目度が低かったニュースを取り上げます。それは、10月7日まで東京で行なわれていた『アフリカ開発会議』で、河野太郎外相がとんでもない爆弾発言をしたことについてです。
――爆弾発言って?
池田 河野氏は、『質の高い国際基準に合致するプロジェクトがあれば、日中が協力してやっていく可能性は大いにある』という旨の発言をしました。おそらく外務省の役人が作成した原稿のまま話していたので、わかりやすく"翻訳"しましょう。
これは、『理由は後づけで考えるけど、今後は他国への開発支援分野で中国に追従するよ』という意味なのです。つまり、日本は中国の覇権主義的な政策を認める方向に変えるということです。
――ええ~っ!?
池田 日本の国益を考えると、この方針転換は絶対に損です。今、中国のアフリカ進出に対する警戒感は欧米諸国で急速に高まっています。『一帯一路(いったいいちろ)』という独自の巨大経済圏構想を掲げる中国は、アフリカ諸国に莫大(ばくだい)なお金を貸しつけ、その資金で行なうインフラ整備などを中国企業が請け負う構図でその国への影響力を急激に強めている。
これは中国による経済的な植民地化行為だと欧米諸国は危機感を抱いているわけです。日本が中国の植民地化政策に追従したら、日本に対する世界の印象はどうなるでしょうか?
――良くないだろうな......。
池田 日本にとってより重要なのは、中国の拡大路線のメインターゲットはアフリカではなく東南アジアだということです。3年前に中国が発足させた『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』にアメリカや日本が絶対に参加しない姿勢を明確にした理由は、中国の"本当の狙い"が露骨だったからです。
しかし今回の河野外相の発言は、中国が東南アジア諸国を経済的にのみ込むことまで肯定するようなものです。日本に好意的な感情と良好な経済関係を持っている多くの東南アジア諸国は、心の底から落胆したと思います。
――マズイじゃないか!
池田 フィリピン、ベトナム、インドネシアなど、経済のみならず領土までも中国からの攻勢にさらされている南シナ海周辺の国々は特にそう感じたことでしょう。"中国に同調する日本"という印象は、東南アジアにおける日本の立場を悪くする危険性しかありません。
――なんで日本の外交方針は国益を無視するの?
池田 元凶は、外務省の硬直した体質と自民党の意思決定システムの不備です。外務省は、中国やアフリカ、東南アジアと異なるエリアの問題について、それぞれの地域を担当する部局がバラバラに考えています。
中国の一帯一路戦略については中国・モンゴル第一、第二課で。アフリカ会議の件はアフリカ第一、第二課で。東南アジア問題は南東アジア第一、第二課でといった具合です。日本の省庁は"局が違えば別の役所"といわれるほど縦割りの硬直した体質。国益のために部署を横断して異なるテーマを統合して考えることをしない組織なのです。
――ダメだなあ......。
池田 さらに問題なのは、政治家が外務省の各担当者から説明を受け、バラバラに議論していることです。バラバラに出た意見を政治家が集約して考え、日本の大方針を決める仕組みは自民党に存在しない。だから今回のように、アフリカ会議での外相コメントが日本の国益にどんな影響を与えるのかを議論する仕組みもない。
さらに不幸なことは、ポスト安倍が岸田文雄元外相だと目されていることです。彼は"外務省の役人から評判がいい"政治家。それは裏を返せば、岸田氏が外務省の外交方針にまったく疑いを持たない人物だという意味なのです。安倍首相から岸田氏へと続く日本外交が日本人の未来に幸せをもたらすとは思えません。
●池田和隆(いけだ・かずたか)
元農林水産大臣秘書官。1967年生まれ、熊本県出身。「農林族議員のドン」と呼ばれた故松岡利勝元農水大臣の秘書を16年間務め、国家権力や利権、国の意思決定の実態を内側から目撃し続けてきた知られざる重要人物。第1次安倍政権の崩壊も、実はこの男が震源地だった。