『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、羽田空港の国際線が増便できない理由について語る。

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日米貿易交渉に続き、羽田空港の国際線の増便問題でも、日本はトランプ政権から肘鉄を食らわされてしまったようだ。

東京五輪に向け、政府は東京都心上空を飛行して羽田空港に発着する国際線向け新ルートを検討していた。

羽田空港の国際線発着回数は年間6万回。新ルートを設定すれば、9.9万回に増やせる見込みで、政府はその新ルートを活用して2020年に訪日外国人数4000万人、インバウンド消費額8兆円を実現する青写真を描いていた。

ところが、その新ルートが在日米軍の管轄する「横田空域」の一部を横切るルートだったため、アメリカ側が「米軍の運用に支障が出る」と、その利用を拒否してきたのだ。

横田空域は東京都福生(ふっさ)市にある米軍横田基地の上空だけに設定された狭いエリアと考えがちだが、そうではない。実際には1都9県にまたがる最大高度7000mの巨大な空域だ。

しかも、横田空域はアメリカ空軍の完全管制下にあるため、日本は独立国でありながら、首都圏上空という自国の心臓部の飛行ルートを自由に使うことが許されないのだ。

こんなバカな話はない。いくら安全保障をアメリカに頼っているとはいえ、これではまるで植民地ではないか?

第2次世界大戦の敗戦国として日本同様、米軍基地を受け入れているドイツ、イタリアはもっと毅然としている。国内での米軍訓練にはドイツ、イタリア政府の同意が必要だし、日本のように在日米軍に国内法が適用されないということもない。

この不条理をもたらしているのは1960年に結ばれた日米地位協定だ。普通の独立国なら過度に主権が侵害されているとして、アメリカと交渉し、協定の改定に乗り出すものだ。

しかし、安倍政権には、アメリカに米軍管制権の返還を求め、地位協定の不平等性を訴え、根本から改定しようという動きは見えない。このまま唯々諾々と米軍の拒否を受け入れてしまえば、2020年に訪日外国人数4000万人、消費額8兆円という政府の目標は絵に描いた餅に終わってしまうことだろう。

見逃せないのは、横田空域の占領というアメリカによる主権侵害が、日本の成長の足かせになることだ。

少子化による人口減、製造業の競争力低下などで、日本の成長力には陰りが見えている。そんななかにあって、インバウンドは大きな伸びが期待できる産業分野だ。17年の訪日外国人数は2869万人と、5年連続で過去最高を記録した。

インバウンド消費額もうなぎ上りで、今年は5.1兆円に達するという予測もあるほどだ。そのインバウンド成長が日米地位協定によって邪魔される。由々しき問題だ。

安倍首相をはじめとする現政権の改憲派は、現行憲法を「アメリカからの押しつけ憲法」「70年以上改正されず時代に合わない」と批判してきた。

ならば、同じくアメリカから締結を強要され、60年近く改定されていない日米地位協定も改定に乗り出すのが筋だろう。今回の新飛行ルート設定拒否に対してもより強い姿勢で交渉すべきだ。

もっとも、日米地位協定を当時アイゼンハワー米大統領と結んだのは首相の祖父である岸信介首相だった。祖父のレガシーを孫が台無しにできっこない。首相に期待するだけ無駄だろう。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。近著は『国家の共謀』(角川新書)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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