『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、9月に発表された「平壌共同宣言」について語る。

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「戦争のない朝鮮半島が始まりました」――。9月19日、南北首脳会談のために訪朝していた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「9月平壌(ピョンヤン)共同宣言」の署名式でそう語ると、アメリカのトランプ大統領もすかさずツイッターで「ワクワクする」と歓迎の意思を示しました。

共同宣言では、南北間の鉄道の連結、開城(ケソン)工業団地や金剛山(クムガンサン)観光事業の正常化など、北朝鮮に対するさまざまな経済協力がうたわれています。もしこの内容が本当に履行されるなら、かつての金大中(キム・デジュン)政権や盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権以上の「太陽政策2.0」とでもいうべき大盤振る舞いです。

北朝鮮が完全非核化のロードマップを示していない以上、これは国連制裁決議を飛び越えた"フライング南北融和"と言わざるをえず、米メディアは「韓国の経済支援が核プログラムに流れる可能性」を指摘しています。ところが当のトランプ大統領は、それを気に留める様子すら見せていません。

まるでドリフのコントのように、周囲から一斉に「トランプぅ~、後ろ後ろ!」と声が上がっているのに、「見えないなぁ」ととぼけている。それを現実に、しかも核問題という深刻なテーマでやっているのだからすごい話です。

結局、トランプ大統領は11月の中間選挙に向けた"果実"が欲しいだけなのです。それも自身の支持者にわかりやすく伝わる、鮮やかで甘い果実が。おそらく実際には、アメリカにミサイルが飛んでこないことさえ約束してくれれば、核のことは南北統一してからでいい、というくらい大ざっぱに考えているでしょう。

今回の平壌共同宣言においては、軍事境界線付近での軍事演習を南北双方で中止するとうたわれていますが、その開始日は「11月1日」。アメリカの中間選挙のわずか5日前です。

この日程は、事前に文大統領とトランプ大統領が調整した可能性もありますし、そうでなくとも文大統領と北朝鮮・金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、トランプ大統領の喜ぶ"ツボ"を狙ってみせたということです。

率直に言ってこれは"見せかけの和平"です。しかし、とにかく経済制裁を解除したい金委員長、「順調に融和・統一へ向かっている」というイメージが政権のよりどころになっている文大統領、そして中間選挙のことしか考えていないトランプ大統領と、三者の利害は見事に一致している。

これは国益というより、あくまでも指導者個人の利害ですが、独裁国の北朝鮮はともかく、民主主義国家である韓国やアメリカでこのようなことが起きていることは、ある意味とても興味深い現象です。

韓国では金委員長に対する"好感度"が上昇しているとの調査もあり、決して少なくない数の国民がストックホルム症候群に陥っているようですし(これは仕方ない側面もあるとは思いますが)、アメリカでもトランプ支持者はやはり"見たいもの"しか見ていない。そもそもデモクラシーというのは、いつの時代でも理想的な形を維持するのが難しいものなのでしょう。

そこにつけ込もうとするのが、北朝鮮や中国、ロシアなどの"非民主国家"です。数年単位で選挙により政権が代わる国より、ひとりの指導者が生涯にわたり力を行使できる国のほうが、長期的な視野で国家を運営できる―この冷徹な現実をあらためて見せつけられた気分です。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送)、『報道ランナー』(関西テレビ)などレギュラー多数。2年半におよぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!!