ついに安倍首相が消費税10%引き上げを明言。その増税対策として、「クレカ払いに2%還元」案が出たかと思えば、現金給付案まで出る大混乱。
しかしそこに「今こそ消費税率を下げよ」とさらなる大胆提案で、注目を集める前衆議院議員がいる。既定路線のように語られる消費増税っていったいなんなのか? 日本を立て直すために本当に必要な税って? ゼロから考えた。
■デフレ脱却は不可能。「消費増税」の悪影響
──安倍首相が先月、2019年10月に消費税を現在の8%から10%に引き上げることを明言しました。
政府はクレジットカードなどの「キャッシュレス決済」に対する2%のポイント還元や、「プレミアム商品券」の配布といった、増税の影響を抑えるための政策を検討しているようです。
そうしたなか、前衆議院議員で元国交大臣の馬淵澄夫(まぶち・すみお)さんは「逆に消費税は5%に引き下げるべきだ」と主張されています。なぜ今、消費税の引き下げなのでしょう?
馬淵 ひとつは、デフレから脱却できない状況下での「消費増税」が日本経済に与える悪影響への強い懸念です。もうひとつは、消費税そのものが決して「公平な税」とはいえないと考えているからです。
ところが財務省は一貫して、「国の借金はすでに1000兆円を超えており、この厳しい財政状況のなかで増え続ける社会保障費を賄うには、安定財源として国民の皆さんに広く負担していただく消費税を引き上げる以外に道はない」と主張し、政治家も含めて多くの人がこれをうのみにしています。
それを象徴するのが「税と社会保障制度の一体改革」という名目で12年に8%への消費増税を認めてしまった民主党政権時代の野田内閣です。ですから、そもそもの発端は、私も在籍していた「民主党」なんです。
その後、民主党は下野し、政権の座に取って代わった自民党の安倍政権が、14年の4月に消費税を5%から8%に引き上げたわけですが、その結果、日本の経済はどうなったでしょうか?
14年度の実質GDP(国内総生産)はマイナス0.5%に落ち込み、いまだにアベノミクスが目標としていた「2%のインフレ」が実現できないばかりか、ふたり以上の世帯の実質消費支出は4年連続で前年比マイナスになっています。
日本のGDPの約6割を個人消費が占めていることを考えれば、GDPが低成長になるのも当然です。つまり、消費増税で家計が苦しくなり、個人消費が落ち込んでいることが、経済全体に深刻な悪影響を与えているのです。
ではなぜ、消費税がこれほどまでに「個人消費」を落ち込ませるのか? それは消費税が財務省の言うような「公平な税」ではないからです。
──「公平な税ではない」とはどういうことでしょう?
馬淵 まずひとつが、消費税の「逆進性」です。「累進性」といって所得が高いほど税率が上がる所得税などと違い、基本的にすべての消費に対して課税される消費税には、所得が低く、収入の大部分が生活費によって消費されるような貧しい家計ほど、年収に占める税負担が高くなります。
日経新聞によると、消費税8%で年収に占める消費税負担率は年収200万円以下で7.2%なのに対して、年収1500万円以上ではわずか1.6%にすぎません(2015年のデータ)。
──つまり、ただでさえ格差が拡大するなかで、さらなる消費増税を行なえば、その影響は所得の低い家計を直撃し、消費をさらに縮小させて日本経済に大打撃を与えてしまうと。
馬淵 そうです。一方、すべての事業者は「増税分は価格に転嫁(上乗せ)できるから問題ない」というのが財務省のタテマエですが、こちらも現実にはそうはいきません。
大企業は比較的簡単に価格転嫁ができるかもしれませんが、より厳しい競争にさらされ、交渉でも弱い立場の中小企業や零細企業の中には、消費増税分をそのまま価格に転嫁することができず、結果的に収益を圧縮したり、人件費をカットしたりして耐えている企業は少なくない。
果たしてこれが「公平な税」だと言えるでしょうか。
■社会保険料控除を廃止して代替財源に
──なるほど。ただ「税金を上げるな」と言うのは簡単ですし、「できれば上げてほしくない」というのが多くの人たちの本音だとしても、問題は「消費増税なしでも大丈夫なのか?」という点ではないでしょうか。
もし消費増税を先送りし続ければ、今の30代、40代が高齢者になった頃には年金制度が崩壊し、国家財政が破綻すると指摘する人もいます。
この先、少子高齢化で社会保障費がさらに増えることを考えれば、「消費税を10%に引き上げても足りない」という声もあるなかで、消費税に代わる財源はどうするのですか?
馬淵 そこでまず提案したいのが「社会保険料控除」の見直しです。
これは納めた社会保険料(国民年金、厚生年金、健康保険など)の全額が所得から控除される制度です。1952年の導入以来、「限度額なしの控除」として現在に至っていますが、近年、社会保険料の増大に伴い、控除額も増加して税収の減少を招いています。
社会保険料は基本的に収入が高い人ほど多く負担する仕組みなので、「全額控除」によって収入の高い人ほど多くの控除を受けられることになります。
しかも、例えば年収200万円以下の場合の所得税率(平均)が1.4%なのに対して、年収1000万円から1500万円の場合は13・9%ですから、控除額×税率で計算すると、この制度で減免されるひとり当たりの税金の額は高所得者のほうが圧倒的に多くなる計算です。
──馬淵さんはこの「社会保険料控除」を廃止すべきだと主張されています。もし廃止されれば、どの程度の財源が見込めるのでしょう。
馬淵 財務省の統計資料などを基に試算すると、社会保険料控除によって失われている税収は2.2兆円以上と見込まれるため、社会保険料控除を廃止すれば、消費増税分1%から1.5%分に相当する財源が確保できると考えられます。
もちろん、社会保険料控除の廃止によって、低中所得者の負担は増えますが、消費税の引き下げが実現できれば、その負担を上回るメリットが期待できますし、それによって個人消費が上向けば、日本経済全体にとっても大きなプラスとなるはずです。
★後編⇒「日本の借金1000兆円という数字自体を疑ってみる必要がある」馬淵澄夫に聞く『消費税を引き下げよ』論
●馬淵澄夫(まぶち・すみお)
前衆議院議員、元国交大臣。昨年の衆院選に「希望の党」から出馬し落選。現在、政界復帰を目指し「浪人中」の馬淵氏。民主党が与党だった2011 年には消費税引き上げ反対を訴え代表選に立候補するも増税派の野田佳彦氏に敗れている