『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、日米貿易協定に関する交渉の行方を予測する。

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日米貿易協定に関する交渉が2019年早々にもスタートする。このコラムで指摘したとおり、安倍政権は、物品貿易に関する交渉「TAG」という言葉を捏造(ねつぞう)し、「FTA」(自由貿易協定)のように大幅な関税引き下げなど、包括的自由化措置をもたらすものではないと説明している。

一方で、アメリカのペンス副大統領が「日米でFTA交渉を始めることになった」と内外のメディアに言明していることからもわかるとおり、この交渉は日本にとって非常に厳しいものになると予測される。

だが、私は19年7月の参院選までの交渉はのらりくらりとしたものになると思っている。もちろん、閣僚級以下では激しい応酬が行なわれるだろうが、安倍首相とトランプ大統領が決定的に対立することにはならないはずだ。なぜなら、「TAG」は安倍・トランプ間の"選挙互助会"の産物だからだ。

日米首脳が新貿易協定の交渉入りに合意したのは、18年9月末のこと。同年11月には米中間選挙があった。トランプ大統領にすれば、支持者にアピールできる材料が欲しい。

そこで安倍首相は事実上のFTA交渉入りを認め、(1)農産品の関税をTPP水準並みに下げることを交渉前から譲歩し、(2)米自動車産業の雇用と生産の増加に日本が協力することまでトランプ大統領に約束したのだ。

(1)はアメリカの農業従事者、(2)は自動車産業で働く人にとってグッドニュース。トランプ大統領が支持者に「日本から成果を得た」と誇示し、共和党への投票を求めたのは言うまでもない。これが安倍・トランプ選挙互助会の第一幕だ。

第二幕はトランプ大統領から安倍首相へのお返しだ。19年に参院選がある。日米交渉で日本大敗の結論が出ると国民の批判が高まり、自民党敗北で"安倍降ろし"につながりかねない。それはトランプ大統領にはマイナスだ。安倍首相ほど自分に追従し、高い武器も言い値で爆買いしてくれる外国の首脳はいない。

だから、来年前半の日米交渉は激しいジャブの応酬止まりとなる。間違っても屈辱的な対米譲歩と、日本の有権者が激怒するような結論は出ないはずだ。

ただし、第三幕、参院選終了後は日米交渉は火花散る激しいものに豹変(ひょうへん)する。その頃にはトランプ大統領は20年の再選に向けた事実上の選挙戦に突入するからだ。そうなれば、再び安倍首相に対して自身の支持層にアピールできる成果を差し出せと迫ってくるはずだ。

そのとき、日本が差し出すものはなんなのか? 安倍首相は米自動車産業の雇用と生産を増やすことをトランプ大統領に約束してしまった。その約束を実行しろとばかりに、対米輸出の自動車関税引き上げや国内の自動車工場のアメリカ移転を迫られることになるだろう。

TPPではアメリカは乗用車25年、トラック30年での関税撤廃を約束していた。それと逆のことが、安倍・トランプ選挙互助会によって進む。

ほかにも日銀による通貨安政策を封じる為替条項や、中国との協定にはアメリカの承認が必要などの毒素条項を押しつけられる可能性も十分にある。

「TAG」と名前を詐称しても、日本の国益を損なう交渉の結果までは偽れない。それが判明して驚くのは19年の参院選後だ。そのことは覚えていてほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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