日本の「国民投票法」は規制ユルユルの「鍵のかかってない部屋」だという――。※写真はイメージです

2016年、トランプが勝ったアメリカ大統領選、そして同年、イギリスがEU離脱を決めた国民投票。この、大国の未来を左右する2つの選択に「ロシアが介入していた」疑惑が持ち上がっている。ロシアが大金を使ったキャンペーンで世論を操作したといわれる、いわゆる"ロシアゲート"疑惑だ。

実は、これは日本にとって人ごとではない。安倍政権は2020年の憲法改正を目指しているが、改憲を決する「国民投票」のルールが驚くほど"規制ユルユル"だからだ――。

英国「2015年欧州連合国民投票法」と日本「国民投票法」の比較をし、運動資金の制限や運動団体登録の義務・国籍による制限などの面で、いかに日本の国民投票法が「門も、ドアも、鍵のない家」のようなものであるか指摘した前編に続き、後編では"誰が"介入する危険性があるのかを解説する。

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では、もし、日本で改憲の是非を問う国民投票が行なわれた場合、「誰が」「なんのために」介入する可能性があるのか、だろう。

国民投票制度に詳しく、『広告が憲法を殺す日』(本間龍氏と共著、集英社新書)などの著書がある、シンクタンク「国民投票広報機構」代表の南部義典(なんぶ・よしのり)氏はこう見る。

「米大統領選挙や英国のEU離脱のときのようにロシア、という可能性もありますが、例えば『9条』の改憲を問う国民投票なら、米国が戦略的に改憲派を後押しする可能性もあるかもしれません。

今年9月の日米首脳会談でのトランプ大統領の発言などを見ても、米国は日本への武器輸出が、今後さらに拡大することを強く望んでいます。

9条改憲で自衛隊の立場が強化され、集団的自衛権の行使や海外展開への障害が小さくなれば、米国の軍需産業に新たな需要が生まれる可能性は大きいですし、米軍と自衛隊の共同作戦が可能になれば、米軍の海外での軍事負担を軽減したい米国の国益にもつながります。

おそらく、米政府や軍需産業は『直接的に』資金を提供することは避けるでしょうが、日本に影響力を持つシンクタンクや財団を通じて、あるいは日本の軍需関連企業などを介して9条改憲を支援する手段はいくらでもあるはずです」

もちろん、そうした米国の思惑を阻止すべく、ロシアや中国が逆の形で日本の国民投票に介入しようとする可能性も否定できない。

また、社会の分断そのものを目的とする場合もありえる。

「国家や巨大企業が大規模なフェイクニュースの拡散やネット世論操作などを駆使して、他国を攻撃する『ハイブリッド戦』は、今や既存の軍事兵器以上に重要な兵器だと認識されています」

こう指摘するのは、サイバーセキュリティに詳しく、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)などの著書を持つ作家の一田(いちだ)和樹氏だ。

「その目的は、攻撃対象となる国の社会に混乱や分断をもたらし、敵を不安定化、弱体化することです。当然、米大統領選や英国のEU離脱と同様、国論を二分する日本の憲法改正で、国民投票がそうした攻撃の対象となる可能性はあるでしょう。つまり、これは安全保障上の問題なのです」

改憲に対する主張にはさまざまなものがあるだろう。しかし、日本の将来を左右するかもしれない国民投票が「外国」に操られていいはずがない。「敵の攻撃」に備えるべく、ユルユルの国民投票法を改正することは喫緊の課題ではないだろうか?

【国民投票法とは?】
憲法96条に定められた「憲法改正の手続き」にのっとり、「国民投票」の具体的な手続きやルールを定めた法律。2007年3月に当時の与党(自民・公明)と野党第一党(民主党)の提案を一本化し、同年5月に成立した。憲法改正案が国会の衆参両院で3分の2以上の賛成を得て「改憲の発議」が行なわれると、60~180日以内に18歳以上の有権者による「国民投票」が行なわれ、過半数が賛成すれば憲法改正が承認される