今年7月の参議院選挙前にも、安倍晋三首相と北朝鮮・金正恩(キム・ジョンウン)委員長が電撃的に日朝首脳会談を行なうかもしれない――。
コリアウオッチャーの間で、にわかにこんな可能性が取り沙汰されている。外務省関係者がこうささやく。
「ふたつの要因があるんです。ひとつは日露交渉が厳しいこと。当初、安倍首相は北方領土の返還に道筋をつけて支持率をアップさせ、7月の参院選になだれ込もうと考えていたはずですが、昨年から苦戦が続き、1月22日の日露首脳会談でも事実上、成果ゼロ。こうなってくると、日露交渉に代わる外交的成果が欲しい。そのためのシナリオが日朝首脳会談というわけです」
もうひとつの要因は?
「2月末までに開かれる予定の米朝首脳会談で、米朝関係が進展する気配がある。金委員長が具体的な非核化メニューを提示し、見返りとしてトランプ米大統領が経済制裁の一部解除に応じる可能性は小さくありません。
さらに、金委員長はその後にも自身の韓国・ソウル訪問、中国・習近平(しゅう・きんぺい)国家主席の訪朝、ロシア・プーチン大統領との首脳会談など、すさまじい"外交ラッシュ"を予定している。日本だけが蚊帳の外で手をこまねいているようでは、外交的孤立を招いたとして政権批判が起きかねず、首相としては日朝対話に動かざるをえないのです」(外務省関係者)
コリア国際問題研究所の朴斗鎮(パク・トゥジン)所長もこううなずく。
「米朝急接近は十分にありえます。ロシア疑惑で窮地に立つトランプ大統領は、とにかく外交成果が欲しい。金委員長の提示がICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発中止、寧辺(ニョンビョン)核施設の査察受け入れといった"部分的な非核化メニュー"であっても、制裁の一部解除で応じ、『金正恩からビッグディールを引き出した』と誇示する可能性大です。
こうなると、安倍首相もじっとしてはいられなくなる。日本側から日朝首脳会談を金委員長に呼びかけたとしてもおかしくありません」
ただ、難しいのは対話テーブル、つまり首脳会談におけるテーマの設定だ。拉致問題の解決を交渉の最重要議題にすれば、北朝鮮は対話に応じないだろう。金委員長にしてみれば、米朝関係が改善すれば中韓露の経済支援も期待でき、焦って日本と交渉する必要がなくなるからだ。
それでも北朝鮮を交渉の席に引っ張り出す秘策はあるのだろうか?
「2014年の日朝ストックホルム合意に立ち戻ろうと提案するのもひとつの方法です。当時の合意内容では、北朝鮮が拉致被害者の再調査をしたタイミングで、日本が制裁を一部解除して人道支援を検討することになっている。
人道支援ならアメリカも昨年12月に一部認めたので、日本も同じことをやれる。拉致被害者の調査と人道支援の検討をツートラックで行ない、それぞれの協議を別チャンネルで進めるとなれば、金委員長もメリットを感じて日本との対話に応じるでしょう」(朴氏)
安倍首相にとって、これはヘタすれば国内支持層から批判されかねない手法でもあるが......果たしてどうなる?