「そうりゅう」型潜水艦がもしオーストラリアに輸出されることになれば、総額4兆円以上のビッグプロジェクトになる

日本の潜水艦が"逆転受注"か!? オーストラリアでそんな報道が出始め、一部で話題になっている。

少し説明が必要だろう。中国の海洋進出を警戒する豪海軍は、最新鋭の次期潜水艦を外国から輸入することになり、2016年にコンペが行なわれた。そこに参戦していた日本(「そうりゅう」型潜水艦)やドイツと競り合った末、受注を勝ち取ったのはフランス。12隻の建造費用約4兆円というビッグビジネスだ。

ところが、ここにきて豪仏の交渉が難航している。仏建造メーカーと豪政府の間で結ばれる、情報開示や現地雇用に関する契約で折り合いがついていないというのだ。

それだけでなく、肝心の潜水艦そのものに関しても懸念があるという。軍事アナリストの毒島刀也(ぶすじま・とうや)氏が解説する。

「フランスの提案は、2016年に就役する予定だった新型原子力潜水艦を通常動力型に改造するという内容でした。ところが、元になる原潜の就役が大幅に遅れており、通常動力型艦の設計・建造にいつ入れるのか、メドすら立っていません。

また、豪海軍はアメリカ製水中聴音システムを採用していますが、これが仏製潜水艦とうまくマッチングできるかどうかも疑問。仏製機器は優れているものの独自性が強すぎ、調整に大きく時間を取られる可能性があるのです」

2016年4月、ターンブル豪首相(右、当時)はフランスに豪海軍次期潜水艦を発注すると発表。しかし完成は大幅に遅れている

コンペから約3年たち、中国の海洋進出はさらに加速。南シナ海のみならず、オーストラリアの北西に広がるインド洋にもその手を伸ばしている。豪海軍の危機感は推して知るべし、だろう。

そして、もうひとつ3年前との大きな違いは、日本の「そうりゅう」型潜水艦が飛躍的な進化を遂げつつあることだ。

昨年10月、同型潜水艦の11番艦「おうりゅう」が進水した(竣工は2020年3月)。「おうりゅう」は、水中での動力源を従来のバッテリーとAIP(非大気依存推進)装置の併用から、GSユアサ社が開発した大容量リチウム電池一本に変更。同じ「そうりゅう」型であっても、実際には新型と言って差し支えない。

「電力容量は従来の約8倍。速力、航続力などで限界まで電池を使い切る運用が容易になります。水中最大戦速は時速37キロですが、一気に電力を使わず戦術的に運用すれば、時速14キロで最大200時間は潜航できる。それでいて充電速度は従来より速く、充電耐用年数も長いのです。海峡などで敵を待ち伏せるだけにとどまらず、積極的に"獲物"を探す戦術にも対応できます」(毒島氏)

通常動力型でありながら、原潜に近い運用が可能になりうる「おうりゅう」の進化は、まさに豪海軍が求めているもの。もともと静粛性や建造費、維持費などの面では日本がフランスを上回っていただけに、ここにきて"逆転受注"というシナリオが注目され始めたというわけだ。

しかも、今年5月にはオーストラリアの総選挙がある。3年前にフランスを選んだ現与党・自由党が敗北し、政権交代が起きれば、「契約破棄」の可能性はいよいよ高まる。今後の動向に要注目だ。