『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、米軍基地「辺野古移設」の県民投票で、反対派が直面するであろうハードルについて語る。

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普天間基地の辺野古移設をめぐる県民投票(2月24日投開票)に向けて、反対派の「オール沖縄」が勢いづいている。投票実施を拒否していた5市が選択肢を「賛成」「反対」「どちらでもない」の3択とすることを条件に参加を表明したのだ。

これで投票は沖縄県全41市町村で行なわれる。その投票でデニー知事らが目指すのは「移設反対の圧倒的な民意」だ。

安倍政権での4度の国政選挙、さらに昨年9月の知事選などで、沖縄県民は辺野古移設慎重派の候補を当選させることで、反対の意思を示してきた。ここでさらに県民投票で圧倒的多数が反対を表明すれば、辺野古移設をストップさせることができると期待しているのだ。

政府が基地建設予定地にマヨネーズ状の軟弱地盤があることを認めたことも、「オール沖縄」に追い風になっている。地盤強化には6万本の砂杭(すなぐい)を海面から70mの深さまで打ち込む必要がある。

そのため、総事業費は2兆5000億円(工期13年・沖縄県試算)に膨らむと予測されている。過剰投資は明らかで、これでは沖縄県民でなくても、「反対」に丸印をつけるはずだ。

ただ、県民投票で移設反対派が「圧倒的な民意」を示すことはたやすくない。

投票の選択肢「どちらでもない」はくせものだ。「賛成」と「反対」の2択だけでは、県民が分断されて対立する恐れがある。それを嫌って、中立的な「どちらでもない」を選択する有権者は少なくないのではないか? そして、「どちらでもない」は、移設賛成に有利に働くと私は考えている。

もし「どちらでもない」が相当な票数を占め、「反対」が全有権者数の半数を下回れば、たとえ「反対」が「賛成」を上回ったとしても、辺野古移設ストップの説得力は落ちる。政府もここぞとばかり、「過半数割れでは民意とは言えない」とアピールすることだろう。

例えば投票率80%の場合、「反対」が沖縄県の全有権者の5割になるには、有効投票数のうち62・5%が「反対」票でなければならない。投票率が70%なら、必要な「反対」票は71・4%とさらに上がる。

一方で移設賛成派は、たとえ「賛成」がわずか20%でも、「どちらでもない」が20%あれば、2択合わせて40%となる。反対は6割だが、全有権者で見ると48%で過半数割れだ。賛成派は、「反対が絶対の民意ではない」と強弁できる。

しかも「オール沖縄」が有利な条件が増えたと歓迎する軟弱地盤問題も、考えようによっては「どちらでもない」派増加の要因となる。

何しろ、2兆5000億円規模のバラマキ工事が13年間も続くのだ。そのときは、「どちらでもない」は好都合な選択肢となる。辺野古移設に賛成したという負い目を感じることなく、バラマキの恩恵にあずかれるからだ。

軟弱地盤の問題をひた隠しにしてきた安倍政権だが、県民投票を前に突然、その存在を認めた。これは政府が反省したのではなく、「おいしいバラマキが始まる」という利益誘導シグナルを発したと解するべきだろう。

安倍政権はあの手この手で、「反対」票の過半数割れを仕かけている。移設反対派が「圧倒的な民意」を示すためのハードルは思った以上に高いことを「オール沖縄」は肝に銘じるべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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