『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、「社外取締役」を天下りポストと見なす政官界の風潮に警鐘を鳴らす。
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「(愛媛県や今治市の関係者とは)記憶の限りではお会いしたことはありません」
加計(かけ)学園疑惑で、野党の追及をこんな官僚答弁で乗り切った柳瀬唯夫(ただお)元首相秘書官が2月1日付で、NTT系企業の社外取締役に就任していたことが明らかになった。
柳瀬氏は昨年12月1日付で、シャープのパソコン事業子会社「ダイナブック」の非常勤取締役にも就任しており、これで昨年7月に経済産業省審議官(次官級)を辞して民間人となってから、2社目の就職となる。
政権内での柳瀬氏の評判はすこぶるよいという。「記憶の限り」というフレーズを連発し、見事に野党の追及を封じた。後に加計学園関係者と会っていたことがわかっても、「聞かれなかったから答えなかった」と危なげなくかわした。
森友学園疑惑で公文書改竄(かいざん)の指示をして政権にダメージを与えた佐川宣寿(のぶひさ)元国税庁長官と違い、巧みな官僚答弁で安倍首相を守りきった官僚として、柳瀬氏が「よい仕事をした」と官邸関係者から褒められるのもよくわかる。
それだけに安倍政権にすれば、首相をスキャンダルから守り、忠勤に励んでくれた柳瀬氏をきっちり処遇しないわけにはいかない。そうしなければ、霞が関官僚たちの忠誠心も揺らぎかねない。本来なら、官邸は柳瀬氏を経産省次官に起用して報いたいという気持ちがあったはずだ。
だが、現役官僚のままでいると、国会で野党の再追及を受けかねない。そこで柳瀬氏に経産省を辞めさせ、民間ポストで処遇することにしたのだろう。民間人であれば、証人喚問以外は国会招致を拒否できる。
注目すべきは柳瀬氏の天下りポストが「社外」「非常勤」という言葉のつく役職だったということだ。これまでなら次官級キャリアの天下り先は独立行政法人の理事長や大企業の顧問などが多かった。
独立行政法人のトップなら格式は高いし、民間企業とはいえ顧問なら役員室や秘書、専用車などが提供される。給与も2000万円超と高額だ。しかし、社外取締役ではそんな高給は難しい。せいぜい500万円から1000万円程度だ。
ただ、退任後もマスコミに追及されるリスクがある柳瀬氏にとっては都合のよいポストではある。業務は月1回程度の取締役会に顔を出すくらいで、マスコミとの接触機会も減る。官邸もそれがわかっていて、まずは社外取締役などのポストをアレンジしたのだろう。
とはいえ、次官級審議官だった柳瀬氏の給与は2300万円前後だったはず。その給与水準を保証するには2社では足りない。最低でももう1社、社外取締役ポストをあてがいたいところだ。
となると、近いうちに「柳瀬氏、3社目の社外取締役に就任」というニュースが流れるかもしれない。そうして2、3年ほとぼりを冷ました後で、柳瀬氏は独立行政法人の理事長や大企業の常勤役員など、格の高い天下りポストに就くのではないか?
第三者的な立場で取締役会を監督し、企業ガバナンスの強化に寄与するのが社外取締役の役目だ。しかし、柳瀬氏のような問題官僚の天下りケースが増えると、社外取締役導入で企業ガバナンスを強め、成長力を高めようという企業の努力に水を差しかねない。社外取締役を天下りポストと見なす政官界の昨今の風潮は極めて危険だ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中