べトナム・ハノイで米朝首脳会談が行なわれていた2月27日、ロイター通信ワシントン支局が興味深い記事を配信した。米国防総省が、北朝鮮の弾道ミサイルをステルス戦闘機F-35で撃墜できるかどうか検討に入ったと報じ、さらにこの"新構想"の勝算について具体的に検証しているのだ。
弾道ミサイルに対する防衛手段といえば、艦上もしくは陸上発射型の迎撃ミサイルで撃ち落とすというのが従来の方法。一方、この新構想は、発射直後に上昇中の弾道ミサイルを、戦闘機から発射した空対空ミサイルで撃ち落とすという発想だ。
記事の中ではミサイル防衛の3人の専門家がコメントしているが、要約するとこんな感じだ。
・F-35がステルス性を生かし、敵の探知を避けながら北朝鮮の領空深くまで侵入。最先端のセンサーで弾道ミサイル発射を探知し、空対空ミサイルを発射して撃ち落とす。
・既存のハードウエアを使った方法のため、もし成功すればほかの戦略より早期に、しかも低コストでの運用が可能。
・ミサイルの誘導に必要な大気密度のある大気圏内で撃ち落とすための時間的猶予は、発射から約200秒。探知し、照準を定め、発射するまでに約50~60秒かかると考えると、F-35は弾道ミサイルから約80km以内に接近しておく必要がある。
・ただし、F-35が発射する迎撃ミサイルに要求される速度が速すぎて、物理的に「溶けてしまう」可能性もある。
米国防総省は今後、半年かけて技術的課題を検証していくという。航空分野の技術に詳しい軍事アナリストの嶋田久典氏が解説する。
「理論上は可能なアイデアですが、成否は新型の空対空ミサイルの開発次第でしょう。弾道ミサイルを高度2万5000~5万mで迎撃するとして、そのときの弾道ミサイルの速度は秒速2.0~3.0キロに達します。F-35が下から空対空ミサイルを打ち上げる形で発射し、弾道ミサイルに追いつくには、秒速3.2キロくらいのスピードが必要。換算するとマッハ10を軽く超える速度です。
この速度では、圧縮された空気が熱を帯び、対空ミサイル自体が溶けてしまう。それを防ぐには耐熱素材を用いる必要がありますが、今度は大量の推進剤を内蔵したそのミサイルを戦闘機のウエポンベイ(機体内部の爆弾庫)に収納できるかという問題も浮上します。機外に装備すればステルス性が犠牲になり、敵の防空システムに探知されやすくなってしまうからです。
また、弾道ミサイルが発射されるときに、タイミングよくF-35を北朝鮮の領空に飛ばせているのかという問題もあります。当然、偵察衛星や早期警戒レーダーとの連携、あるいは空中給油機によるアシストも不可欠でしょう」
こうした諸条件がクリアできなければ、F-35は弾道ミサイルの撃墜自体には関与せず、弾道ミサイルの発射を探知する役割を限定的に担うことになる可能性もあるという。
米朝の非核化交渉が暗礁に乗り上げそうななか、米側がこうした新たな「核ミサイル無力化プラン」を検討していることが表沙汰になったのは、もちろん駆け引きの要素も含まれているかもしれない。いずれにせよ、日本にとっても今後の動向に要注目だ。