『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、注目を集める大阪クロス選挙と、その後に予想される波乱の"第2ラウンド"について語る。
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露骨な党利党略が透けて見える悪手というほかはない。大阪維新の会が仕掛けたクロス選挙のことだ。
松井一郎大阪府知事と吉村洋文大阪市長の狙いは、はっきりしている。
松井知事らは今年11月をめどに、「大阪都構想」の可否を問う2回目の住民投票を目指していた。しかし、国政選挙での協力を餌に都構想への協力を取りつけたはずの公明党に裏切られ、袋小路に陥った。
ただでさえ、大阪維新の党勢はさえない。住民投票を行なうには大阪維新は府議会、市議会でそれぞれ過半数の議席を確保する必要があるが、4月の統一地方選では苦戦も予想されていた。
このままでは今年11月の住民投票はおぼつかない。維新の存在意義にも疑問符がつくだろう。そこで松井知事が大阪市長選に、そして吉村市長が大阪府知事選に入れ替わって立候補するという奇策を打ち出したのだ。
地方選に加えて前代未聞の首長のクロス選となれば、有権者の注目度は高まる。関心を集めて票を掘り起こし、過半数獲得→住民投票にこぎ着けようという魂胆が見え見えだ。
だが、自治体で住民が首長を選ぶ動機はさまざまだ。候補が掲げた福祉や防災、地域経済策など幅広い公約をチェックして、有権者は投票先を決める。
ところが、松井知事らにそんな理屈は通じない。お祭り騒ぎに乗じて選挙に勝ってしまえば、あれは大阪都構想の是非を問う投票だったと強弁し、有無を言わさず都構想を強行する腹だ。こうした大阪維新の態度はあまりに独善的であり、住民自治にはおよそなじまない。
そもそも、大阪都構想は15年の住民投票で一度否決されている。過半数の住民が、大阪維新のこだわる都構想には納得していないのだ。もしクロス首長選、統一地方選で大阪維新が勝利し、再び住民投票となれば、住民を巻き込んだ地域の分断と対立はさらに深まるだろう。こうした状況は大阪にとって好ましいことではない。
そして、クロス選挙に関して、選挙の結果以上に気にかかっていることがある。それは橋下徹前大阪市長の動向だ。
クロス選挙となれば、橋下氏は大阪維新の応援に入ることになるだろう。大阪での橋下人気は落ちたとはいえ、まだ根強い。それで風が吹いて選挙に勝利となれば、その勢いを駆って橋下氏が国政進出というシナリオも十分にありうる。
そうなれば、橋下氏を軸に野党再編が進むかもしれない。
国民民主党と合流した自由党の小沢一郎氏は、橋下氏と気脈を通じている。国民民主党には大飯(おおい)原発(福井)の再稼働時に裏で協力するなど、橋下氏と関係が深い前原誠司元民進党代表もいる。
それらを踏まえれば、場合によっては、橋下氏が国政進出をきっかけに新党を立ち上げ、国民民主党と連携するケースも想定されるのだ。
7月の参院選では自民党の苦戦もささやかれている。焦った安倍首相が衆参同日選を仕掛けるようなことになれば、橋下氏の出馬の可能性はさらに高まる。そのチャンスを逃せば、次の衆院選は3、4年も先となる。いくら人気の高い橋下氏でも過去の人になりかねない。
大阪クロス選挙後の橋下国政進出、そして野党再編という波乱の"第2ラウンド"に注目してほしい。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中