『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、新紙幣発行に隠された政権中枢の遠大な布石について予測する。

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紙幣が20年ぶりに刷新される。ただ、発行は2024年。5年も先のことだ。前回の04年の刷新時に、政府が新札への切り替えを告知したのは02年で、刷新予定の2年前だった。今回の告知はそれより3年も早い。

新札の発行を決めたのは安倍首相と麻生太郎副総理だ。安倍政権のツートップが紙幣刷新を前回よりも3年も前倒しで公表したのはなぜか、などと疑問視して解説を流す報道もあった。

第1次安倍内閣は、07年の統一地方選で負けて、それがその夏の参院選敗北、そして、安倍首相退陣につながった。今年も春の統一地方選、夏の参院選と同じパターンの選挙がある。

安倍首相は同じ轍(てつ)を踏むわけにはいかない。そこで4月1日の新元号発表、紙幣の刷新公表、そして5月1日の改元と、3連発で祝賀ムードを盛り上げて、政権イメージをアップさせようとした。新元号発表直後、政権支持率が急上昇したのは思惑どおりというところだろう。

だが、こんなに単純な選挙対策なのに「なぜそんなに早く発表したのか」などと騒ぐマスコミを見て、安倍官邸はほくそ笑んでいるのではないだろうかというのが私の感想だ。なぜなら、そこに隠されている政権中枢の遠大な布石が見落とされている可能性があるからだ。

そう思ったきっかけは、新札への切り替え時期の表現だ。財務省の発表は、5年後の「24年」でも「24年度」でもなく、「24年度上期」(24年4月1日~24年9月30日)だ。

紙幣の刷新日時は前回の04年も前々回の84年も、いずれも11月1日だった。正確に20年後の日に行なってきたのだ。

官僚は前例を踏襲するものだ。次回の新札切り替え日の事務方の第1案は、20年後の24年11月1日だったと思われる。

ところが、安倍政権はあえて「24年度上期」と発表した。11月1日は排除され、切りの良い下期初めの10月1日でもない。年度初めの4月1日というわけでもなかった。これは何を意味しているのか?

ここからは単なる私の想像だ。荒唐無稽(こうとうむけい)な予測と笑ってもらっても構わない。

自民党では安倍首相4選支持の声が高まっているが、仮にそうなった場合、24年9月は4選の任期が終わり、5選を目指す総裁選挙のある月だ。

安倍首相の「美しい国、日本」を実現するには、時間はいくらあっても足りない。官邸は5選の展開もゼロではないとみて、安倍支持ムードを演出できる紙幣の刷新日を総裁選前、つまり「24年度上期」に仕込んだのではないか? 

24年のカレンダーを調べて驚いた。3月以降の曜日の並びが今年とまったく同じなのだ。今年は改元が行なわれる5月1日を祝日にすることで、10連休が実現した。ということは24年も5月1日を新札発行の記念日として祝日にすれば、10連休の黄金週間となる。

世間はお祭りムードとなり、新札を手にする安倍首相の映像をテレビで大々的に流せば、政権支持率がアップ、「安倍5選」の雰囲気が盛り上がる――今の官邸なら、そう計算し、人知れずこっそりとそんな布石を打つくらい朝飯前だろう。

でも、安倍4選すら困りものなのに、5選なんてまっぴらだ。「24年度上期」は「安倍5選の備え」という私の想像がただの妄想に終わることを願っている。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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