『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、政府部内で議論される年金制度の見直しについて語る。

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年金をめぐるキナくさい話が政府筋からぽつりぽつりと聞こえてくる。今年が5年に1度の年金財政の健全性をチェックする財政検証の年に当たるためだ。

厚労省は「100年安心」と謳(うた)うが、長寿化と少子化で年金会計は苦しい。過去にためておいた年金積立金も、現行の仕組みのままで年金支給を続けた場合、三十数年後には枯渇するという学者グループの試算もあるほどだ。

だからこそ、加入期間や支給額をどのように変えれば、年金制度が持続可能なものになるか、政府部内でさまざまなシミュレーションが行なわれており、その一部がメディア報道を通じて流れることになる。

現在、政府部内で議論されているのは、(1)厚生年金の加入期間を現行の70歳未満から70歳以上に延長し、70歳を超えても保険料の支払いを義務づける。(2)年金受給開始年齢を70歳に引き上げる。(3)企業に対する再雇用義務を現行の65歳から70歳に引き上げる。(4)一定以上の収入のある高齢者の年金支給額を減らす「在職老齢年金制度」を廃止する、などだ。

ここから読み取れるのは国民に、年寄りになっても働き続ける一方、年金受給は先送りしてほしいという政府の願望である。

だが、そんな虫のいい話がすんなりと通るはずがない。年金をあてに老後の人生プランを設計している多くの高齢者は、政府に対して強い不満を抱くことになるだろう。

では、どうするのか? もしかすると、政府は一大キャンペーンを展開して、この不満を抑え込もうとするかもしれない。その中身を予想してみたい。

キーワードは安倍政権が看板政策として打ち出している「人生100年時代構想」だ。

日本の年金制度では、早めに受給を開始した人ほど生涯の年金総額は減る仕組みだ。しかし、日本人の平均寿命は延び、100歳以上の長寿者もざら。そのとき、早めの受給を選んだ長寿者は少ない年金で暮らさなくてはいけない。そこで「それで大丈夫ですか?」と、国民の不安を煽(あお)るのだ。

さらに、高齢者を「年金受給を遅らせて働く人」と「年金をもらって遊ぶ人」に分け、前者を褒めたたえ、後者を白眼視する。その過程では元気で働けるのに年金を受給する前期高齢者(65歳~74歳)に対し、その振る舞いを非難するような「早期年金受給バッシング」が始まることになるかもしれない。

ただ、いきなりこのような事態が進行するわけではない。国民に不人気な政策だけに、安倍政権が年金制度の変更に着手するのは国政選挙の後になるはずだ。

ということは、今年7月の参院選が衆参同日選となった場合はこの秋の臨時国会、同日選でなければ、政権支持率のアップが見込めるなるべく早い時期に衆院選を行ない、その後の国会で本格論議がスタートするというスケジュールが考えられる。

私自身は高齢者を一律視せず、高い収入や多くの資産を保有する人の年金は減額せざるをえないと考えている。その浮いた分を低年金の高齢者や低収入の若者の将来年金に回せば、年金制度はより持続可能なものになるはずだ。

間違っても「早期年金受給バッシング」で、本当に年金が必要な人に受給辞退を迫るような愚かな年金改革に突き進むのはやめてもらいたい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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