『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、貿易交渉でトランプ政権の言いなりになる安倍政権を批判する。

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USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)の締結を目指すトランプ政権がカナダ、メキシコの求める鉄鋼・アルミニウム関税の撤廃に合意した。これでUSMCA交渉は批准に向けて大きく前進することになる。

アメリカが関税撤廃へと動いたのはカナダ、メキシコの報復が大きい。鉄とアルミに一方的に追加関税をかけて交渉を有利に進めようとするアメリカに、両国は米国産豚肉や牛肉の輸入120億ドル分に報復関税をかけて対抗した。

これでアメリカの畜産農家がダメージを受け、トランプ政権も追い込まれて早期妥協へと動いたのだ。

EUや中国もトランプ政権が仕掛けてくる貿易戦争にはきっちりと報復関税で応えている。

例えば、EUは2018年6月にトランプ政権が鉄鋼・アルミニウム関税をかけてくると、米国製バーボンやオートバイなどに25%の報復関税をかけて応戦した。

このため、欧州向け販売に悪影響が出ると恐れた米ハーレーダビッドソン社は関税回避のため、生産工場の一部をヨーロッパに移したほどだ。

中国は、アメリカが3次にわたって総額2500億ドル分の対中輸入品に関税をかけると、そのたびに対米輸入品(5200品目、総額1100億ドル)に報復関税を発動させている。

諸外国が抵抗するのは、そうしないと交渉で押し込まれ、何も勝ち取れずに終わってしまうと知り抜いているからだ。

ところが、まったく抵抗しない国がある。日本だ。とにかくトランプ政権の言いなりで、現在進行中の日米通商協議でもその姿勢は一貫している。

この協議はそもそもアメリカがTPPから一方的に脱退したため、新たに日米2国間交渉が必要となって始まったものだ。

アメリカは日本にも一方的に鉄鋼・アルミニウム関税を課している。本来なら、ただちに米国産牛肉などに報復関税をかけ、カナダやメキシコ同様、「鉄鋼・アルミニウム関税を中止しないと、協議には応じない」とトランプ大統領に迫り、撤廃を勝ち取るべきだった。

なのに、安倍政権はそれをしないどころか、逆に交渉前から、農産品の関税引き下げはTPP水準までならOKと譲歩した上に、「日本はアメリカの自動車産業の生産と雇用を増やすことに留意する」と、トランプ大統領に約束してしまった。

実は、TPPで日本は「アメリカによる日本車・同部品への関税撤廃」という成果を得ていたのだが、この約束によって、実現の可能性は限りなく怪しくなった。

不可解なのはメディアがこうした政府の対米追従ぶりを批判しないことだ。日本の輸出を有利にする円安ドル高の為替政策を禁じる為替条項や日本車への25%関税など、厳しい要求をアメリカから突きつけられて大変だという報道ばかりである。

しかし、これでは国民は安倍政権がすでに対米「大敗北」を喫していることに気づかず、アメリカのまったくバカげた追加要求さえ回避できれば、外交的には勝利だと勘違いしかねない。

その意味で日本は今、官邸のスピンコントロール(不利になることは公表せず、成果だけを誇示する政治的な情報操作術)下にあるのではないか?

安倍政権の対米ポチぶりは目に余る。諸外国同様、今こそトランプ政権にNOを突きつけ、妥協を引き出す国際交渉を行なうべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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