『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、6月19日の党首討論に注目すべき理由について語る。

* * *

「風というのは気まぐれで、コントロールできるものではない」

安倍首相の口からこんなセリフが飛び出たのは5月30日、経団連総会でのことだった。風とは「解散風」、つまり首相が衆院を解散し、衆参ダブル選挙に打って出ることを意味している。

解散権は首相の専権事項だといわれる。しかし、政界の一寸先は闇だ。それだけに、自分が決意してもそうそう簡単に解散など打てるものではない―

首相はそう言いたかったのかもしれないが、永田町に額面どおりに受け止める人間などいない。逆にこの思わせぶりなセリフを根拠に、「首相はいよいよ衆参ダブル選をやると腹を固めたのではないか?」との観測が強まる結果になってしまった。

そこでがぜん、注目されているのが、6月19日に予定されている党首討論だ。昨年6月以来、1年ぶりとなるこの場で首相が衆院解散に言及するのではと、野党が警戒しているのだ。

議員への答弁義務があり、首相が基本的に受け身にならざるをえないほかの国会質疑と違い、党首討論なら安倍首相も野党党首を相手に自由に質問したり、議論を吹っかけたりできる。

そして、駆け引き次第では解散に言及することはたやすいことだ。事実、2012年11月の党首討論では野田佳彦首相が当時、自民党総裁だった安倍首相に対し、「2日後に解散しようじゃありませんか!」と切り出し、衆院解散が実現したこともあった。

野党の衆院選への準備は遅れている。289ある選挙区のうち、野党が候補を擁立できているのは半分ほど。一方の自民は現職を中心にほぼ全選挙区で候補者を決めている。今、衆参ダブル選をやれば自民の衆院大勝が確実なだけでなく、相乗効果で参院選でも勝利し、憲法改正に必要な勢力である衆参3分の2の議席を維持できる可能性も高まる。

おそらく党首討論で野党筆頭の立憲民主党・枝野幸男代表は「アベノミクスも安倍外交も成果はさっぱりだ」などと、安倍政権の失政ぶりを厳しく批判するだろう。しかし、その批判が厳しければ厳しいほど、首相にとって"大チャンス"となる。その際、首相はこう切り返すのだ。

「アベノミクスで経済は上向いている。安倍外交も日本の国際的な存在感をかつてないほど高めている。なのに、野党は全部ダメだと言う。ならば、国民に信を問おうじゃありませんか。衆院を解散しましょう!」

これで、野党側はぐうの音も出せなくなる。「解散権を弄(もてあそ)ぶべきではない」「解散の大義がない」などと反論を試みても、首相から「政権交代のチャンスなのに、逃げるのか」と挑発され、枝野氏は逃げ場を失い、「堂々と受けて立とうじゃないか」と見えを張るのが精いっぱい。永田町は衆院解散、衆参ダブル選挙へとなだれ込むことになるはずだ。

今月中旬には、安倍首相はイラン訪問で世界の注目を集める作戦だ。帰国後の党首討論直後には大阪でG20が開催され、安倍首相が各国首脳をもてなす姿がメディアに大量に露出するはずだ。

そうなれば目立つのは政府・与党ばかり、野党の存在は埋没してしまう。こうなると、野党にダブル選の勝ち目はない。

党首討論でふわふわとした「解散風」が、確固とした「解散宣言」へと変わるのか? 6月19日の国会に注目してほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

★『古賀政経塾!!』は毎週金曜日更新!★