特定秘密保護法、安保法制に共謀罪法の成立。集団的自衛権に関する解釈改憲。森友・加計(かけ)学園問題と公文書偽造問題。などなど第2次安倍政権が発足して以来、その政策はさまざまな議論を呼び、また重大な疑惑も指摘されながら、国政選挙では大敗し続ける「野党」。
これほどに「リベラル」が有権者の心をつかみ一矢報いることができない理由はどこにあるのか? 新著『なぜリベラルは敗け続けるのか』(集英社インターナショナル)で、自戒と怒りを込めて直言する政治学者の岡田憲治氏に話を聞いた。
* * *
──本書の帯に「私は本書執筆で『友』を喪(うしな)う覚悟を決めた」とあります。岡田さんがこの本で「喪う」かもしれない「友」とはどんな人たちですか?
岡田 例えば、「脱原発は今すぐやるべきだ。だから全原発即時停止すべし!」とか「憲法9条はユネスコの世界遺産にすべきで指一本触れるのも許さない!」とか「安倍晋三は悪魔だ」と民主主義の危機を訴え、時々国会前のデモにも行ったりする人たちです。
あるいは、そうした内容のフェイスブック投稿にひたすら「いいね」を押しまくり「シェアさせてください」と反応するだけで、なんとなく満足してしまうような「自称リベラル」の「友人」たちですね。
僕が彼らをあえて「友」と呼ぶのは、僕自身も彼らの主張はおおよそ理解できるし、彼らが基本的に「まじめな人たち」だということもよくわかっているからです。
ただ、彼らには自分たちの主張をどう実現するのかという「HOW」の部分が決定的に抜け落ちている。それこそが「われわれ」が負け続けている、最大の原因なのだと訴えたくて書いたのがこの本です。
──なぜ「HOW」が抜け落ちてしまうのでしょう?
岡田 それは「政治とは何か」という基本的な問いに対する答えを見誤っているからです。僕は政治的な行為の根っこにあるのは「何を守りたいのか?」という思いだと考えています。
当たり前の話ですが、人はひとりでは生きていけません。自分がいて、他者がいて、そこに関係性が生まれて......という積み重ねの上に社会や世界があるわけです。
そういう社会で生きていくなかで「自分の思い」を実現しようと思ったら、自分と同じ思いを持つ仲間を集めていくしかありません。実はこの「仲間集め」こそが政治の基本なのだということを、野党のリーダーたちも、SNS上の自称リベラルの人たちも十分理解していない。
本気で世の中を変えたいと思ったら、まずはお互いの違いを乗り越えて共有できる部分で仲間を増やしていく努力が不可欠で、それが政治です。
それなのに、それぞれが自分たちの正しさを主張し合い、世界を変えることより「ピュアな自分たち」を守ることを優先してしまうから、連帯ができず仲間が増えない。これが、日本のリベラルが負け続けている大きな理由のひとつです。
──「野党共闘」はうまく機能せず、結果的に与党の圧勝を許してしまう......と。
岡田 もうひとつは、政治の基本が「人間の気持ち」だという点です。どんなに崇高な理想を持ち、正しい主張をしていても、それを相手に伝えようという努力や工夫がなければ、「うちの商品はいいものだから黙っていても客が来る」と威張っている店と同じで、そんな店は潰れてしまいます。
それと同じで「支持されないのは国民が問題の深刻さをわかっていないからだ!」と相手のせいにしたり、「安倍政権のやることはすべて悪だ!」という単純な善悪の二分法で切り捨ててばかりいると、有権者の心は離れてゆくばかりです。
人って「自分がなんとなく思っていたこと」を誰かが明確な言葉にして言ってくれると、「ホラ、やっぱりそうだよ!」と心が動く。逆に、自分が知らなかったことを「上から目線」でいきなり言われても「あー、はいはい、そりゃ確かにそうかもしれないけど、偉そうなオマエの言うことは聞きたくねえよ!」と思うのが人情でしょ?
──ああ、「リベラルな意識高い系」の人に言われて「カチンときちゃう」やつだ。
岡田 それに実際の選挙って政策やイデオロギーに関係なく、「人の気持ち」で動く面が大きいのに、日頃の挨拶とか、選挙で支援してくれる人たちに感謝の気持ちを示すとか、そういう「仁義を通す」みたいな部分の大切さをわかっていない野党の政治家は少なくない。
「自分たちは正しいことを言ってるんだからそれ以上卑屈なことをする必要がない」なんていう気持ちでは、長年、仁義を武器に泥くさい選挙を重ねてきた自民党候補には勝てません。
──では、ズバリ聞きます。「リベラルが勝つ」ための戦略は?
岡田 まずは「伯仲国会」(与党の議席が過半数あるが安定多数は下回っていること)の実現を目標にすると、衆院で連立与党が60~70議席減らせば、彼らは今のような好き放題ができなくなる。
で、今の小選挙区比例代表並立制の下で、その実現にどのくらい「仲間を増やしたらいいのか」というと、実はそれほどハードルが高くない。
有権者で実際に投票所に行くのは約半分として、そのうち確固たる支持政党や支持候補がいて投票している人は半分程度でしょうから、全体の約2割程度。
以前、民主党への政権交代が起きたときには、それ以外の「なんとなく自民党に投票していた善良で普通な人たち」の中のわずか7、8%が投票先を変えただけで自民党が200議席近くも減らしてるんです。だからこそ、この7、8%の人たちに共感される主張を、その人たちに伝わる言葉で訴えなきゃいけない。
立憲民主党の枝野代表が「次の選挙の争点はパリテ(議員が男女同数)と日米貿易密約問題と多様性」と言ってますが、それじゃあ負けるに決まってます。もし本気で勝ちにいくのなら、選挙の争点は憲法でも原発でもパリテでもなく、ゼニカネ(銭金)の話に絞るべきです。
普段は仲の悪い野党が4年限定という条件で共闘し、消費増税で得られる財源は「『特定財源』として、国立大学の授業料無償化や私立大の学費補助、高校無償化、増加する社会保障費や就職氷河期世代への支援に集中投資します!」。そういう主張でバーンと打ち上げれば自民党は焦りますよ。絶対。
●岡田憲治(おかだ・けんじ)
1962年生まれ、東京都出身。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了(政治学博士)。専修大学法学部教授。専攻は現代デモクラシー論。著書に『権利としてのデモクラシー』(勁草書房)、『言葉が足りないとサルになる』『静かに「政治」の話を続けよう』(共に亜紀書房)、『働く大人の教養課程』(実務教育出版)、『ええ、政治ですが、それが何か?』(明石書店)、『デモクラシーは、仁義である』(角川新書)など
■『なぜリベラルは敗け続けるのか』
(集英社インターナショナル 1600円+税)
「安倍一強」を許し続ける野党陣営。安倍政権は「特定秘密保護法」「安保法制」「共謀罪法」を強行採決するなど、与党の圧倒的な議席を背景にやりたい放題だ。そうしたなか、野党はなぜ自公連立政権を脅かすほどの議席を選挙で勝ち取ることができないのか。筆者はその理由を、野党が「ちゃんと政治をやってこなかった」からと指摘する。今の野党と同じく「コドモ」だった筆者が、「オトナ」になれない野党を鋭く批判する