攻撃でタンカーに開いた穴は喫水線より上。明らかに魚雷ではない

いったい誰が、なんの目的でやったのか?

日本の現職首相として41年ぶりにイランを訪問した安倍首相が、最高指導者ハメネイ師と会談した6月13日。ペルシャ湾の出口に当たるホルムズ海峡で、日本の海運会社が運航するタンカーが何者かに攻撃され爆発・炎上した(乗員は全員無事)。明らかに首脳会談を台無しにするタイミングを狙ったテロ行為だ。

アメリカはこれをイランの犯行と断定し、その証拠だとする衛星動画・写真を公開。イスラエルのネタニヤフ首相もイランの犯行だという認識を示した。しかし、ドイツやフランスは犯人の断定を避けており、一部ではアメリカの自作自演説まで出回るなど、さまざまな解釈が乱れ飛んでいる。

まずは攻撃方法から分析してみよう。各国の空海軍に精通するフォトジャーナリストの柿谷哲也(かきたに・てつや)氏はこう語る。

「衝突防止の観点から、大型の船舶には必ずAIS(船舶自動位置通報装置)が備わっていて、船名、船舶管理者、出発地、目的地、現在位置をネットで調べることができます。犯人はこれでタンカーの位置を特定したのでしょう。

ただし、AIS情報だけでは日本企業が関わっていることまではわからない(今回攻撃を受けた1隻はパナマ船籍)。そのため、事前に積み出し港で偵察が行なわれていたはずで、小規模なテログループによる犯行とは思えません。

攻撃を受けた船尾と中央舷側にはほぼ同じ高さにふたつ穴が開いていました。有線誘導式対戦車ミサイルにしては精度が高すぎるので、攻撃手段は磁石式吸着機雷だと思います。米軍が撮影した画像を見ると、犯人のボートは全長約12m。船外機(エンジン)2基、船室屋根に長さの異なるアンテナ3本、水上レーダーが装備され、夜間高速航行も可能です。

これはイラン革命防衛隊海上部隊の標準装備で、現場から70kmほど離れたジャスク基地、200kmほど離れたチャバハール基地に似たようなボートが配備されています」

アメリカの言うように、イラン革命防衛隊が犯人である可能性が高いようだ。

では、なぜ日本企業のタンカーを攻撃したのか。中東情勢に詳しい国際ジャーナリストの河合洋一郎氏はこうみる。

「イランは最初から、安倍首相の訪問をまったく重視していませんでした。『アメリカとイランの関係がこんなに悪いなか、何しに来たの?』というのが本音でしょう。一応、ハメネイ師は会うことで安倍首相のメンツを立てつつも、トランプ大統領から託されたメッセージはその場で全否定。その上、日本のタンカー攻撃というでかいオマケまでつけてくれたわけです。正直、役者が違いましたね」

また、米・イラン関係に限らず、実は最近のペルシャ湾は非常に危険な状態だという。河合氏が続ける。

「春頃からペルシャ湾はサウジアラビアを中心とする湾岸諸国とイランによる海上・港湾テロ合戦で"火の海"になっています。サウジの背後にはイスラエルのモサド、イラン側にはイエメンの武装組織フーシなどのシーア派武装勢力がついており、貨物船や商船、港湾・石油施設などの炎上・爆発が多発。

今回アメリカのパシリであることを証明してしまった日本は当然、サウジ側と見なされますから、タンカーに対する攻撃は6月5日に発生したイラン商船6隻の炎上事件に対する報復という側面もあるでしょう」

こうした状況が続けば、日本の船舶は今後も危険にさらされる。また、海上自衛隊に民間船舶の護衛任務が要請されるかもしれない。日本は難しいかじ取りを迫られそうだ。