復元した大阪城にエレベーターを設置したのは「大きなミス」だった――。
6月28日、大阪で開かれたG20サミットの首脳夕食会において、安倍首相が発したこの"失言"が、なぜか名古屋をざわつかせている。
首相の発言は一部から「バリアフリーへの理解がない」と批判を浴びたのだが、河村たかし名古屋市長は7月1日の会見で「気持ちはようわかる」「文化や伝統を大事にしようという趣旨でしょう」などと首相をかばったのだ。
それもそのはず。昨年5月に河村市長は、木造での復元が計画されている名古屋城天守閣に「エレベーターはいらない」と正式表明、設置を求める地元の障害者団体と熾烈(しれつ)なバトルを繰り広げていた。
では、河村市長と障害者団体の間でどんなやりとりがあったのか? 昨年6月に発足し、今月2日にはエレベーター設置を求める市民の署名を市に提出した「名古屋城木造天守にエレベーター設置を実現する実行委員会」(以下、実行委員会)の事務局担当者がこう話す。
「エレベーターがなければ、障害者やお年寄りは天守閣に登れません。なので、私たちは市役所前のデモや72時間にわたるハンストで設置を訴えたのですが、河村市長は『史実に忠実な復元をするから、エレベーターは要らない』と頑(かたく)なに譲ろうとしません」
そこで同市と河村市長はエレベーターの代案として計11案を障害者団体に示したのだが......。
「移動補助ロボットやドローン、フォークリフトなどによる搬送といった非現実的なモノばかりでした。私たちを荷物扱いしているかのような姿勢にも怒りが湧いてきます。
さらにはVR(仮想現実)を使った"天守閣体験"の提供という案もありました。バーチャルで我慢しろ、ということでしょうか? 本当に悲しいです」(事務局担当者)
河村市長はこの怒りにどう答えるのか? 登庁前の彼を直撃してみた。
――エレベーターはなぜダメ?
河村 設置すると、鉄骨を入れんといかんのよ。それではもともとの名古屋城とは違う建物になってしまう。バリアフリーの精神にも反すると思うちょります。
――どういうことですか?
河村 障害者も健常者も誰もが分け隔てなく、過去の本物の文化に接することができる。それこそが本当のバリアフリーですよ。エレベーターなんか設置して本物の名古屋城を見れなくなってしまうことが、果たしてバリアフリーといえるか、ということなんですよ。それはバリアフリーとは全然違うよ。
――よくわからないのですが、とりあえず妥協はしないと?
河村 ある市民集会で、忠実に復元した名古屋城とは別にもうひとつ、「テーマパーク名古屋城」とか「博物館名古屋城」をつくって公開したらよいという意見があったけど、そっちの城だったらエレベーターをつけてもええわ。
* * *
河村市長のこの回答に、実行委員会の斎藤縣三(けんぞう)共同代表があきれる。
「障害者や高齢者が健常者と一緒に同じ動線でスムーズに移動できることこそ、本来のバリアフリーです。しかし、市長はバリアフリーについて、聞いたこともない独自の概念を持ち出してエレベーター設置を拒否している。これでは私たちと話がかみ合うはずがありません」