『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、イラン情勢の緊張感が高まるなか、安倍首相への不安を語る。

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イラン情勢がきなくさい。核合意から離脱したアメリカに反発したイランが、合意で定められた低濃縮ウランの貯蔵量300kgの上限をオーバーさせたことに続き、濃縮度も核合意の上限3.67%を超える5%へと引き上げる意向を表明したためだ。

このイランの挑発に対し、トランプ政権は「イラン攻撃の準備は整っている」などと強硬姿勢を示している。状況はまさに"開戦前夜"の様相だ。

両国が戦争に突入すれば、日本も高みの見物とはいかない。トランプ政権はホルムズ海峡の航行の自由に依存し、経済的利益を得ている国として、日本を繰り返し名指ししている。開戦となれば、アメリカはシーレーン防衛を理由に日本に戦争参加を求めてくるはずだ。

政府は、ホルムズ海峡封鎖が安全保障関連法で集団的自衛権行使を認める「存立危機事態」になりうると認めている。イランがホルムズ海峡を封鎖すれば、日本の自衛隊は、武力行使と見なされる機雷の掃海などに従事させられる可能性が高い。

そこで重要なのが、政治リーダーの働きだ。万が一にも日本が戦争に巻き込まれることがないよう、外交努力を重ねないといけない。だが、その役目を担うべき安倍首相は、アメリカとイランを諫(いさ)めるどころか、トランプ政権に追従するだけだ。

ただ、それ以上の大問題がある。それは、安倍首相が「過去の間違いを認められない政治家」だということだ。それは彼自身の間違いだけでなく、自民党の間違いについても同じである。

7月4日に安倍首相が福島県で発した参院選の第一声は、そんな彼の性質を端的に表した。首相は2011年の福島原発事故を振り返り、「民主党政権の下、遅々として復興は進まなかった。私たちは野党である悔しさ、申し訳なさで胸が震える思いだった」と野党攻撃をしたのだ。

だが、この発言はおかしい。原発を推進してきたのは自民党だ。特に安倍首相には06年、国会で野党議員から「津波などによって電源喪失の恐れがある」と指摘されたにもかかわらず、「ありえない」と一切の対策を拒否した「罪」がある。

このことが福島原発事故を招いた一因だといってもいいだろう。なのに、首相は自らの責任を認めるどころか、原発事故を選挙の宣伝に政治利用したのだ。

過去の間違いを認めようとしない政治リーダーには反省というものがない。反省しないから、再び同じ過ちを犯す。

そこで思い起こされるのが、03年の小泉政権時にイラク政府が大量破壊兵器を保有しているというニセ情報に踊らされ、自民党政権が世界に先駆けてアメリカのイラク攻撃を支持・加担したことだ。

安倍首相はこのときの誤りについても、否定し続けている。世界中が「イラク戦争が間違いだった」という結論に至っている今になっても、だ。

憲法9条による集団的自衛権の否定は、太平洋戦争の過ちを反省して、国民が権力者の手足を縛ったものだ。しかし、安倍首相はあの大戦を過ちだと認めず、解釈改憲で集団的自衛権を解禁して戦争の歯止めを葬り去った。

今回のイラン危機でも、イラク戦争や太平洋戦争のときの過ちを繰り返し、検証や反省もないまま、無為に戦争に突入する―そんな不安が拭えない。今こそ過ちを認めて、それを未来に生かせるリーダーを選び直すべきときなのではないか。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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