『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、安倍政権が緊急に議論すべきふたつの課題について語る。
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参院選が終わった。通常国会も閉会し、例年どおりなら国会法で定められた臨時会を短い期間で開いた後に、永田町は夏休みに入る。
だが、今夏に国会議員が休む暇はない。臨時会会期を長く設定して緊急に論議しないといけない重要なテーマが少なくともふたつあるからだ。
ひとつは日米通商協議の行く先だ。トランプ大統領はツイッターで「参院選後に農業と牛肉の分野で大きな数字が日本から出てくるだろう」とつぶやき、安倍政権が関税の取り扱いなどで大幅な妥協をすることをにおわせている。
本当なら由々しきことだ。国会でほとんど論議もされていないのに、大幅な通商上の譲歩を安倍首相が独断でトランプ大統領と密約したことを意味するからだ。
実現すれば日本の農業は大ダメージを受けるかもしれない。密約があったのかなかったのか、TPP以上の妥協をするのかしないのか、さらには、日本がTPPで獲得していたアメリカの自動車関税撤廃や同国が一方的に課している日本の鉄とアルミに対する追加関税の撤廃などに関する交渉方針について、しっかりと国会の論戦の場で安倍首相を問いただす必要がある。
もうひとつのテーマも重要だ。緊迫するイラン情勢を受け、アメリカのダンフォード統合参謀本部議長が中東のホルムズ海峡を航行するタンカーなどの護衛のため、有志連合を結成するのでその参加国を2週間ほどで決定したいと発言したのは7月9日のことだ。
安倍政権は、日米間でさまざなやりとりをしていることは認めているが、何を話しているかは明かしていない。
16日には、選挙への影響を懸念して、「この段階で自衛隊が参画することを考えているわけではない」(岩屋毅防衛相)と、有志軍参加には慎重な姿勢を見せたが、あくまでも「この段階では」としている。選挙後に豹変(ひょうへん)する可能性を否定していないのだ。
それでなくても、6月にホルムズ海峡で日本の海運会社が所有する外国籍タンカーが攻撃された事件について、安倍政権は「わが国の平和と安全を脅かす重大な出来事」と表明している。
実は、あまり報じられていないが、14年夏の衆議院予算委員会閉会中審査で、ホルムズ海峡封鎖などで石油が日本に輸入されない状況は、集団的自衛権発動の条件となる存立危機事態になりうることを安倍首相が認めている。
有志軍としてホルムズ海峡やイエメン沖に駆り出された自衛隊がアメリカとイランとの戦争に自発的に参加できる環境が生まれつつあるのだ。
怖いのはタブーなしのトランプ大統領から「有志軍に参加して、アメリカの戦闘を助けないなら、日米安保を見直す」と脅されたときだ。
日米同盟は日本の安全にとって死活的で、それが損なわれる状況は存立危機事態と解釈できる可能性についても安倍首相は前述の閉会中審査で示唆している。
トランプ大統領の脅しで「日本の安全の危機だ!」ということになり、中東で集団的自衛権の発動という事態になる恐れはないのか? 野党は、日本がアメリカの不毛な戦争に巻き込まれないよう、歯止めとなる言質を首相から引き出すべきだ。
もう一度言おう。参院選は終わったが、国会議員に夏休みはない。これからが本当の戦いだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中