政府にとって好ましい内容の展覧会しか開催できなくなる恐れがあります

文化庁は国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」に警備上の混乱が予想されることを把握しながら事前に説明がなかったとして、補助金の全額交付を取りやめることを決定。これに対し大村秀章愛知県知事は裁判で争う姿勢を明らかにした。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

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最近、東京都の美術館などでは東京オリンピック・パラリンピックに備えたテロ対策として手荷物検査を行なうようになっています。違和感を覚える人もいるようですが、大勢の人が集まる場所では必要でしょう。「あいちトリエンナーレ2019」では、ガソリン缶を持ち込むと脅迫ファクスを送りつけた会社員の男が逮捕されました。

2017年の改正組織的犯罪処罰法(いわゆる「共謀罪」法)です。成立の際に安倍晋三総理大臣は、国内法を整備しなければ東京オリンピックの開催は不可能であると説明しました。

国際的なテロ集団の活動を封じるための条約への加盟を急ぐあまり、本来は暴力団組織を対象としている国内の法律に「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」という曖昧(あいまい)な文言を盛り込むことになり、これでは現場の判断次第でまったく無関係の市民が嫌疑をかけられることにもなりかねないと大きな問題になりました。

先日文化庁は、慰安婦を表現した少女像を展示した企画展『表現の不自由展・その後』への脅迫などを予見できなかったことを理由に、すでに採択されたあいちトリエンナーレへの補助金交付を取り消しました。

実行委員会会長である大村秀章愛知県知事が『表現の不自由展』の再開を検討すると発言した翌日のことです。これが前例となれば、政府にとって好ましい内容の展覧会しか開催できなくなる恐れがあります。

『表現の不自由展』への抗議でも見られた嫌韓ヘイトを煽(あお)るような空気のなか、橋本聖子オリンピック・パラリンピック担当大臣は会場への旭日旗の持ち込みは問題ないとする見解を示しました。

韓国やほかのアジア諸国には、旭日旗はかつての日本軍のシンボルであると拒絶感を示す人もいます。アジアからもたくさんの観客が訪れるなか、旭日旗を振れば国際的批判を浴びるでしょう。日本人同士でも、旭日旗を持ち込もうとする人とそれに反対する人たちとの間でトラブルが起きかねません。

例えば、もし観客が旭日旗に反対する文言の書かれたボードなどを持ち込もうとした場合、手荷物検査の現場の職員がそれを危険物の持ち込みと見なしたり、オリンピックを妨害しようとする行為だと見なしたらどうなるのでしょう。

考えすぎと笑うかもしれないけど、あいちトリエンナーレの補助金交付取り消しだって、いくらなんでもありえないと思われていたのです。

オリンピック開催中にテレビで政府の対応を批判したら、高市早苗総務大臣が「公平性を欠く」と放送局に停波をチラつかせるかもしれません。実際そうしなくても、それを恐れて放送局が自粛すれば、政府の意向に沿う報道しかできなくなります。

そうしていつの間にか、何をするにも疑いをかけられるのを恐れる時代がやって来るのでしょう。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

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