『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、「外為法改正」が日本経済に与えるダメージについて懸念する。
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10月18日に「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の改正案が国会に提出されたことをご存じだろうか? 安倍政権は今臨時国会中の成立を目指し、2020年度内にも施行する意向だ。
これまで日本の上場企業の株式を外国人投資家が取得する場合、発行済み株式全体の10%以上の購入には事前届け出が義務づけられていたが、この基準を10%から1%へと大幅に引き下げるのが今回の改正案の中身だ。
外為法では原子力や半導体など、国の安全保障に関わる日本企業の株を外国人が買う場合、事前の届け出が必要とされており、審査で政府が問題ありと判断すれば、株購入の変更や中止を求めることができる。念頭に置かれているのは中国への先端技術流出防止だ。
欧米では中国への警戒感から外資規制の強化が進んでおり、このままでは規制の緩い日本が抜け穴になってしまうというのが、政府が改正を急ぐ理由だ。
確かに日本企業には軍事に転用可能な高い民生用技術を持つ会社が多い。そうした企業が野放図に外国に買収されないよう、適切な外資規制をすることは必要だろう。
ただ、わずか1%の株取得にも待ったをかけ、事前届け出を義務づけるのはやりすぎだ。これでは外国人投資家は日本株の取得に時間や費用、さらには法的なリスクまでかかり、日本への投資を手控えるということになりかねない。
案の定、この改正案の内容が報道されると、ゴールドマン・サックスをはじめ多くの外国人投資家から、「厳しすぎる。日本の株式市場の発展に有害なだけ」との批判が噴出している。
その批判への対応として政府が打ち出した規制緩和策がまたバカげている。1%規制は譲れないが、役員選任や事業売却などを提案せず、経営に関与しないことがはっきりしている場合には、事前届け出を免除する例外規定を設けるというのだ。
だが、この案は商法で1%以上の株主に認められている株主総会で議案を提案できる権利を外国人投資家から奪うことを意味する。これは、社外取締役を増やすなどして企業統治を向上させ、海外からの投資を増やそうという政府、財界の改革方針に逆行する提案だ。その先に待つのは日本市場のガラパゴス化にほかならない。
今回の外資規制強化の所管は財務省だが、実は、その裏には官邸と一体となった経産省がいる。これまで経産省は半導体やディスプレイなどの日本企業の部門を束ね、世界の一流企業に伍する会社を育てようという日の丸プロジェクトを主導してきたが、そのほとんどが失敗で、ひどいものは破綻(はたん)。
多くはアメリカ企業や中国系ファンドなどに買われてしまった。これは日本株式会社の総元締めを自任する経産省にとって、ガマンならないことだ。当然、天下り先も減る。メンツと省益を守るため、1%規制を導入して、外資に買収されることへの歯止めにしたいという思惑が働いた。
もうひとつ、経産省の裏の狙いがある。日韓関係の泥沼化を招いた日本による「ホワイト国除外」措置に関連して、韓国・サムスン電子などが日本の部品・材料メーカーへの出資で影響力を強める動きがあるのに対して、この規制で対抗しようというのだ。
1%規制は動機不純でやりすぎ。日本経済に大きなダメージを与える前に考え直すべきだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中