米トランプ政権が日本に対し、在日米軍駐留経費の負担を現状の4倍、約80億ドル(約8700億円)に増やすよう要求した――。そう報じたのは、米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』だ。
同誌によれば、この要求は今年7月、当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とNSC(国家安全保障会議)のポッティンジャーアジア上級部長が、日本の政府当局者に伝えたという。
この報道を受け、今月18日に菅 義偉(すが・よしひで)官房長官は「そのような事実はない」と否定したが、過去にもトランプ政権(大統領自身も含む)は"大幅増額要求"をたびたび示唆しており、「火のない所に煙は立たない」という印象だ。
そもそも、在日米軍に関して日本はさまざまな形で費用を負担している。軍事評論家の菊池征男氏が解説する。
「日本が負担している在日米軍関連費用は大きく4種類あり、今回問題になっている在日米軍駐留経費はいわゆる『思いやり予算』。1978年に始まったときは62億円でしたが、2019年度は1974億円(1)です。
ほかに、施設の賃借料や周辺対策費などで1914億円(2)、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)関連経費で256億円(3)、さらに米軍再編関連経費として1679億円(4)を負担しており、(1)~(4)の合計は5823億円(19年度、防衛省発表)にも上ります」
そして、この5823億円のうち、1603億円は日米地位協定の特別協定で5年ごとに決められる「定額枠」。現行枠の期限は2020年度末までで、来春頃から次の金額をめぐる日米交渉が始まる見込みだ。そのため、大統領選挙を控えたトランプ大統領が、「手土産をよこせ」と法外な要求をふっかけてきたとみるべきだろう。
ただし、日本がアメリカに支払う軍事関連費用はほかにもある。菊池氏が続ける。
「日本が米政府を通じて兵器を購入する『対外有償軍事援助(FMS)』、つまり兵器ローンの残高も積み上がっています。19年度だけで新たに7013億円分を契約し、現状の未払い額は合計5兆3613億円。
しかも、これにF-35ステルス戦闘機の追加購入分(105機で約1兆5000億円)、イージス・アショア(2基で6000億円以上)などが加わることもほぼ確定的。この返済だけでも大変な状況で、思いやり予算の大幅な負担増要求など受け入れることはできないでしょう」
米大手通信社の政治記者はこう嘆く。
「トランプ大統領はニューヨーク・ミリタリー・アカデミーの卒業生で、多少の軍事知識はあるはずですが、同盟国との関係を重視したマティス国防長官を今年の1月にクビにして以来、同盟軽視の傾向は高まるばかりです。
その上、私自身も経験したことですが、トランプに批判的な記事を書くとツイッターで『フェイクニュースだ』と罵倒されるばかり。議論すらできません」
つまり、「4倍要求」は同盟相手をナメきったビジネスマンの駆け引きということ。日本もそろそろ本気で怒ったほうがいいかもしれない。