『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、今年注目されるカジノ誘致レースについて語る。

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新年早々の1月7日、カジノ管理委員会が設置された。今後、カジノを誘致したい自治体は2021年7月30日までに申請を行ない、最大3ヵ所がカジノを含むIR(統合型リゾート)の事業者に選ばれる予定だ。

IR施設の建設には時間がかかるが、早ければ2020年代半ばには日本版カジノがデビューする。その意味で、今年はカジノ元年といってもよいだろう。

そこで注目されるのが、最大3ヵ所とされるカジノ立地地域の選定だ。それをめぐって、2020年は壮絶な攻防戦が、日本各地で繰り広げられるはずだ。

昨年末、それを象徴するシーンが関係者の間で話題になった。Jリーグ最終節、横浜F・マリノスが15年ぶりの優勝を決めた日産スタジアムのVIPルームでのことだ。そこに、おそろいの黒いスタジアムコートを着て、林文子市長や黒岩祐治神奈川県知事を取り囲んで談笑する一団が目撃されている。

コートの背中には、見慣れぬロゴと「MELCO」の文字。昨年7月、マリノスのトップパートナー(日産を除く)となった香港の巨大カジノ業者「メルコ」だった。横浜でカジノ開業を目指すメルコは地元Jリーグチームのスポンサーになるだけでなく、昨年12月には横浜事務所もオープンさせ、地域浸透に余念がない。

カジノの運営業者に選ばれるには横浜市長や県知事の支持が欠かせないとあって、日産スタジアムで県政のVIPにご機嫌伺いの「攻勢」をかけていたのだろう。

これまで、カジノ関係者の間ではカジノ誘致レースは大阪、横浜、北海道が有望とする見方が多かった。なかでも議会で多数を握る大阪維新の会が早くからカジノ誘致を準備してきた大阪府・市は選ばれる可能性が高い。

憲法改正のために維新の協力は欠かせないだけに、安倍政権も大阪を落選させることはないだろう。一方、北海道は昨年11月末に誘致断念を表明した。

そして、横浜は住民の反対が根強く、カジノ誘致の是非を問う住民投票や林市長リコールの動きが盛り上がりを見せている。

横浜市長選はカジノ誘致申請締め切り直後の21年8月に行なわれる。そこでカジノ反対派候補が当選すれば、横浜も北海道のように誘致断念に追い込まれかねない。カジノ誘致レースは混沌(こんとん)としているのだ。

さらに、東京都がカジノ誘致レースに参戦すれば、その混沌はさらに深まるはずだ。小池知事は態度を明らかにしていないが、東京都がこのレースから降りたわけではない。依然として誘致を検討中で、自民党都連もカジノ誘致に大乗り気だ。

都知事選は今年7月で、自民党都連は独自候補の擁立を検討中だが、小池知事が誘致を密約すれば、見返りとして独自候補を立てずに小池支持に回るという取引が成立する可能性は高いと私はみている。そして、知事選勝利後に小池、自民一体となってカジノ誘致に動けば、東京は横浜を凌(しの)ぐ最有力候補となる。

昨年末には、中国カジノ企業絡みで秋元司衆議院議員の議員事務所が家宅捜索を受けるという事件があったが、これは検察がカジノ不正を許さないという"政治ショー"の可能性が高い。

カジノは利権の塊。政治家とカジノ企業の不透明な癒着による立地選定を止めるためには国民による厳格な監視が不可欠だ。カジノ元年はカジノ"監視"元年でもあるのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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