『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、日本の働く人をスキルアップさせ、稼げる高度人材へと養成するためのアイデアを語る。
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ロボットやAIを駆使して生産性を上げる第4次産業革命と深刻な人手不足が同時進行するなか、企業の求める人材像が二極化している。
その一極はデジタルツールを使いこなせる高度人材だ。テクノロジーの発展に合わせてより付加価値の高いビジネスを手がけないと企業は存続できない。そのため、企業は高給を払ってでもデジタル化やAI化に対応できる高度人材を囲い込もうと躍起だ。
そして、その反対側の極には、手間はかかるが誰でもできる業務をこなす労働人材がいる。デジタル化やAI化の対象にするにはコストがかかりすぎる仕事だ。ただし、生産性が低いので、何年働いても賃金は低いまま。非正規職やアウトソーシングによって代替されるリスクは今後さらに高まることになるだろう。
つまり、企業の人材ニーズは高い給与を支払ってでも働いてもらいたい高度人材と、AI化やロボット化の枠外に置かれるような仕事を安い給与でこなす人材へと分断されるのだ。
当然、企業は終身雇用を維持しようとは思わない。デジタル化、AI化などにより、企業の仕事内容は刻々と変わる。その時点で新ビジネスに対応できる専門知識やスキルのない社員はリストラされる。
企業がテクノロジーの進化に合わせて適材適所で人材を確保する動きを強めるため、世界は今よりさらに激しい競争と淘汰(とうた)、そして格差が深刻化する時代になるだろう。
格差是正のために、富裕層から重点的に税金を徴収して貧困層に手厚く回す再分配政策に力を入れるべきだという意見がある。しかし、稼げる人と稼げない人が二極化するこうしたシーンに対応するには、もはや不十分だ。それだけでは、稼げる人が生み出されないまま、日本経済が国際競争に負けて沈没することになってしまうからだ。
そこで、ひとつ"暴論"を提唱してみたい。それは、日本の働く人をスキルアップさせ、稼げる高度人材へと養成するため、「第2義務教育制度」を導入するのだ。
現在、義務教育は小中学校の9年間だけだが、これを高校まで延長する。さらに、社会人になった後にも、一定期間経過後に数年間の「第2義務教育期間」を設定し、大学などの教育機関に特別なコースを設けて専門的な知識やスキルを学べるようにするのだ。学び直しにかかる費用は義務教育だから国の負担となる。
もちろん、その間の最低生活費も行政から支給されるようにする。財源は公共事業のように将来への投資として建設国債で賄えばよい。入学資格に年齢制限はなし。「義務教育」ではあるが個人に強制はしない。
こうすれば、日本の格差を大幅に緩和することができる。「第2義務教育制度」を活用してスキルアップすれば、デジタル人材などとして企業に雇用され、高い収入を期待できるからだ。
また、企業は優秀な人材を確保することで業績が上がり、国家財政も個人の所得税と企業の法人税が増えて潤う。個人、企業、国家の3者が豊かになれば、日本も元気になるはずだ。
このアイデアを実現不可能な絵空事と一笑する人もいるかもしれない。ただ、そうでもしないと格差は深刻化する一方ではないか。日本はもっと危機感を持つべきなのだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中