「私はあなたが好き」と「私はあなたと融合し、あなたの一部になっても構わない」は違います

夫婦同姓を望まない人について、「だったら結婚しなくていい」と国会でヤジを飛ばした自民党席の衆院議員は、杉田水脈(みお)氏ではないかと野党が追及している。発言はもとより、記者団の質問に対して無言を貫き、逃げるように立ち去ったことにも非難が集中している。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に思うあんなこと、こんなこと。

* * *

解剖学者の養老孟司(ようろう・たけし)さんは、解剖学とは体の部位に名前をつけるものだとおっしゃっています。つまり、ここからここは腕、ここから先は肩などと、本来は境目なくひとつながりである体の各部に名づけをして切り分けるものなのだと。

確かに、物でも概念でも、境界が曖昧なものに名づけをすると定義がはっきりして安心しますよね。でも逆に、名づけをしたことで形にとらわれることも少なくありません。

選択的夫婦別姓に反対する人たちというのもきっと、夫婦を同じ姓でひとつのものにしておかないと不安なのでしょう。

かつては、結婚とは女性が男性の「家」の一部分になることでした。時代が変わった今も、そのような形が望ましいと考える人々が、選択的夫婦別姓に強固に反対しているのでしょう。夫婦が違う姓を名乗ると、それぞれ別個の存在になるからよろしくない、と。

そもそも国が定めていることに、やれ愛着のある名字だからだのアイデンティティだのとごちゃごちゃ異議申し立てをするのは生意気だというのが本音かもしれません。

「私はあなたが好き」と「私はあなたと融合し、あなたの一部になっても構わない」は違います。私の友人にも「パートナーのことは大好きだけど、自分の姓は大事にしたい」と考える人たちがいます。家族みんなが同じ姓でないと家庭が崩壊するというのもこじつけですよね。同じ姓を名乗っているけれどバラバラの家族なんていくらでもありますから。

それに、姓を変えることによって多大な手間と不便が生じます。結婚したことによって夫婦の一方だけがそのような不利益を被るのはおかしいですよね。

いまさらですが、選択的夫婦別姓はすべての夫婦に別姓を強いるわけではありません。選択肢が増えるということです。1月25、26日に朝日新聞社が行なった全国世論調査では、選択的夫婦別姓について69%が「賛成」と答えています。自民党支持層でも63%が賛成しています。

先月22日、夫婦別姓に関する国会質問の際に、別姓を望むなら「結婚しなくていい」とヤジを飛ばしたとされる自民党の杉田水脈議員は、強い批判を浴びました。今ある国の仕組みに不満なら、結婚を諦めろというのは暴論です。

市民団体が選んだ政治家の性差別発言ランキングのワーストワンに選ばれた麻生太郎副総理兼財務大臣の「(少子高齢化社会は)子供を産まなかったほうが問題だ」もそうですが、個人の選択の自由を軽視し、国にとって好都合な人生設計をするのが「良き国民」だと考える政治家がいることには強い憤りを覚えます。

「良き国民」が豊かな国をつくるのではなく、幸せな個人が国を豊かにするのです。そんな勝手な名づけはお断りです。

●小島慶子(こじま・けいこ) 
タレント、エッセイスト。テレビ・ラジオ出演や執筆、講演とマルチに活動中。現在、日豪往復生活を送る。対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)が好評発売中

★『小島慶子の気になるコト』は毎週水曜日更新! ★