海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が2月2日、中東へ向けて神奈川・横須賀(よこすか)の基地を出港した。
年間のべ3000隻以上の日本関連タンカーが航行し、日本の原油輸入量の実に8割が通過する"命綱"であるペルシャ湾からホルムズ海峡の周辺海域で、昨年6月に日本タンカーが襲撃されたことを受けての措置だ。
ただし、今回の派遣の根拠となるのは防衛省設置法の「調査・研究」という規定。この形で海自艦艇が長期派遣されるのは初めてのケースだ。
もし艦艇が攻撃されるなど不測の事態となれば、自衛隊法の「海上警備行動」を適用することで最低限の武器使用は可能......ということになってはいるが、実際にはその判断に迷うような"グレーゾーン"が広く存在する。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は次のように語る。
「『海上警備行動』は本来、日本の周辺で警察権を行使する海上保安庁の対応能力を超えた場合に、自衛隊に対して防衛大臣が発令するものです。つまり、あくまでも警察権行使の延長上にあり、事実上の交戦は想定外の事態。守ることのできる船舶も日本船籍に限られます。
また、使用する武器は相手の武器の火力に合わせなければならず、例えば自動小銃で攻撃された場合にロケット砲やミサイルで反撃することはできません。正当防衛・緊急避難の場合を除いて人に危害を加えることはできず、さらに、相手が明らかに他国の軍や公船の場合は手出しできません」
加えて言えば、「海上警備行動」は日本の領海や公海での適用を想定しており、他国の領海内では基本的に(当事国の同意があるなど特殊な場合を除き)発令されない。
今回の派遣先となる中東海域でいえば、例えばオマーンとイランの領海が重なるホルムズ海峡では適用外だ。
「例えば『ペルシャ湾・ホルムズ海峡を含む海域での日本関連船の警護』など、任務内容を明確にした特別措置法を国会で制定した上で派遣すれば、現場の隊員たちもそれに応じた心構えで準備を整え、任務に就くことができます。
今回のように、状況次第で任務がハードなものに変わることが予想される、しかもどこまで変わるかはわからない......といった状況での派遣は、自衛隊側にも負担が大きいでしょう」(黒井氏)
例えば、中東の公海上で日本の船舶が攻撃された場合、海自艦はまず日本と連絡を取り、防衛大臣による「海上警備行動」の発令を待たなければ警護もできない。仮にそれが日本の真夜中だったり、あるいは防衛大臣がすぐにつかまらなかったりといった事態となれば、発令を待つ間にさらなる攻撃を受ける危険性もある。
1990年代以降、自衛隊はPKO(国連平和維持活動)や海賊対処、あるいは「後方支援」などの名目でたびたび海外に派遣されるようになったが、微妙な判断は現場任せの感が強かった。
今回もその反省を生かすどころか、国会で十分に審議されることもなく、完全に見切り発車の派遣となってしまった。不測の事態が起きないことを祈りたいが......。