『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、国家公務員法の改正について問題提起する。(この記事は、3月9日発売の『週刊プレイボーイ12号』に掲載されたものです)
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いつになったら、新型コロナウイルスの騒動は収束するのか、多くの国民が固唾(かたず)をのんで見守っている。
ただ、こういうときは注意が必要だ。どさくさ紛れに政府が都合のよい法案を成立させようと動くことがあるからだ。
そのひとつが現在、通常国会で成立を目指している国家公務員法の改正である。公務員の定年を60歳から65歳へ引き上げるというもので、すでに自民党の内閣、国防、法務合同部会が了承、安倍政権も3月10日までには閣議決定を行なう予定だ。
改正法には60歳になれば管理職から外す「役職定年制」の導入や、60歳からの給与をそれまでの7割水準などに抑えるなど、一見、"前向きな"文言が並ぶ。
「役職定年制」は若手官僚を権限のあるポストに登用しやすくして役所人事の停滞を防ぐだろうし、給与を7割水準にとどめれば、総人件費の抑制につながり、税金の無駄遣いも防げる。そう評価して法改正は「問題はない」と反応する有権者も少なくないはずだ。
だが、「役職定年制」はすでに多くの民間企業でも導入されているが、その時期は50歳代前半がほとんどだ。一方で、この法改正では国家公務員は60歳まで役職定年はなく、昇給も続くことになる。民間と比べると、やはり公務員は優遇されていると言わざるをえない。
61歳の給与を7割水準にとどめるという法改正にも公務員優遇の仕掛けが潜んでいる。なぜなら、民間で働く人は50代で役職定年で給与が下がり、60歳の定年後の再雇用で給与水準はさらに半分以下になるのが普通だからだ。
つまり、「役職定年後」の公務員は民間企業で定年となって再雇用された労働者に比べ、少なくとも2、3割高い給与をもらえる可能性が高いのだ。
こうしたことを整理すると、以下のようになる。公務員は60歳までは降格なしにポスト、給与が上昇し続け、それ以降の5年間も役職から外れるものの、どんなに能力のない者でも60歳でピークとなる給料の7割をもらって、民間水準をはるかに上回る年収が保証される。
キャリア官僚の給与は部長や審議官クラスでも年収1500万円は下らないから、給与3割カットでも、その支給額は1000万円を超える。民間企業ではありえない好待遇を保証するのが、国家公務員法改正の正体なのだ。
こんな公務員優遇の法改正がほとんど国会でも議論らしい議論が行なわれないまま、新型コロナ騒動に乗じて実現されようとしている。
本来なら、官民で処遇に格差が出ないよう、50代での役職定年制度や無能な職員の降格・降給などを導入すべきなのだが、安倍政権は特定秘密保護法や安保法制など、自身の関心の深い法律は官僚を言いなりにさせて成立させる一方で、興味のない分野では官僚任せだ。
公務員改革に関心のない安倍首相は、役人優遇の法改正に邁進(まいしん)する官僚たちを抑える気などまったくない。むしろ官僚にやりたい放題にさせることで恩を売っている疑いさえある。
定年延長が実施されるのは22年度からの予定だから、まだ十分な時間的余裕がある。法案を慌てて成立させる必要はないはずだ。コロナ騒動を収束させた後、今秋の臨時国会あたりで与野党が論議し、その内容をじっくりと吟味すべきだろう。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中