『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、コロナどさくさ紛れに政府が強行をもくろむ動きについて指摘する。(この記事は、3月16日発売の『週刊プレイボーイ13号』に掲載されたものです)
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前号で安倍政権がコロナ騒動のどさくさに紛れ、公務員優遇法を成立させようとしていると指摘した。
ところが、その後も政府は今がチャンスとばかりに、ひどい法案や決定を次々と繰り出し、既成事実化しようとしている。前回に続き、コロナどさくさ紛れに政府が強行をもくろむ危うい動きをふたつ紹介したい。
ひとつは3月29日から運用が始まる羽田新飛行ルートの降下角度問題だ。埼玉から東京・練馬区、渋谷区、品川区、大田区など、都心部を横切るこの新ルートの飛行機着陸時の降下角度は3.45度となっている。
航空機の進入角度は3度が国際標準だ。わずか0.45度の差だが、パイロットにとっては通常の着陸に比べジェットコースターまがいの急降下に等しく、着陸時に尻もち事故が多発しかねない危険な角度とされている。
事実、2月初旬に行なわれた試験飛行ではエア・カナダ機が「3.45度着陸」にチャレンジしたものの、「あまりに危なすぎる」と途中棄権、着陸先を成田に変更した。米デルタにいたっては試験飛行そのものを辞退してしまったほどだ。
羽田新ルートの進入角度が3.45度になった原因は首都圏上に広がる米軍管理の横田空域にある。米軍は横田空域への民間機進入をかたくなに拒んでいたため、空域を避けて新ルートを設定(交渉の末、ようやく一部空域を数分間だけ飛行することが認められた)しようとすれば、どうしても3.45度にならざるをえないというわけだ。
世界の航空会社の批判に対して、国交省は3.45度で進入を開始し、着陸直前に3度に角度を緩めるのを認めるというが、これも本当に安全なのか不明だ。このままでは、羽田は"危険な空港"の烙印(らくいん)を押されかねない。
そもそも、本件は乗客や住民の安心、安全に直結する話。数ある課題の中でも最優先で対応しなければならないはずだ。
独立国の日本がなぜ、米軍に遠慮して危険な3.45度着陸をしないといけないのかという本質的な問題も背景にある。本来なら、国会で議論されるべき事柄だが、コロナ騒動でそうした議論もないまま、うやむやのうちに実施されようとしている。
もうひとつは、賃金請求権の消滅時効問題だ。20年4月から民法が改正され、「飲み屋のツケ」の支払い義務が1年から5年に延長されるなど、すべての債権の時効が5年になる。
しかし、労働者の賃金債権の時効は特別法である労働基準法で2年となっており、このままでは矛盾が生じる。そのため、労基法を改正して民法と同じ5年にしろという労働側と、負担が大きいから3年で勘弁してという経営側の間で対立が続いた。その経緯については、以前にこのコラムで紹介した。
その議論に決着をつける政府提出の労基法改正案が、コロナ騒動に紛れて提出されたのだ。
この改正案はどうにも小ずるい。労働側の要求を聞いて5年とするとしながら、末尾の付則で「当分の間、3年間とする」とした。つまり、経営側の主張を事実上、認めてしまったのだ。
国民の安全より米軍の権利優先、労働者の債権保護より企業の利益優先の決定がコロナ騒動の陰で進められている。コロナ対応ばかりに目を奪われ、政府のほかの動きをしっかりウオッチしていないと、後でひどい目に遭いかねない。ご用心あれ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中