ついに、世界最強の軍隊までもが餌食となった。米海軍空母「セオドア・ルーズベルト」で新型コロナウイルスの艦内感染が拡大し、グアム基地への緊急寄港を余儀なくされたのだ。
太平洋をパトロールしていた同艦で、最初に3名の発症が確認されたのは3月24日。そこから爆発的に感染が拡大し、同30日には100名に膨れ上がってしまった。同艦のブレット・クロージャー艦長は、
「われわれは交戦中ではなく、水兵らが死ぬ必要はない。空母の兵員の大半を下船させ、隔離するようお願いする」
という内容の緊急文書を海軍上層部に送った。艦長はこの文書がメディアに漏洩(ろうえい)したことを理由に解任されてしまったが、下船時にはその勇気をたたえる乗組員から拍手と歓声で見送られた。しかも、後に艦長自身も感染していたことが判明し、逆にその解任を決定したトーマス・モドリー海軍長官代理が辞任する騒ぎとなった。
4月7日現在、同艦では230名の感染が確認されている(乗組員は約5000名)。ウイルスが持ち込まれたのは、ベトナムのダナンに寄港したときとも、航空機による支援物資輸送のときともいわれているが、まだ判然としない。
いずれにせよ、海軍の洋上艦や潜水艦は完全な"隔離空間"で、いったん感染者が出れば、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号のケースと同じく、感染拡大を止めることは極めて難しい。中国海軍でも、2月に新型フリゲート「常州」や空母「山東」で乗組員の感染事例があったようだ。
当然、これは日本にとっても人ごとではない。護衛艦や潜水艦をはじめ計140隻近くの艦艇を有する海上自衛隊はどう考えているのか、海上幕僚監部広報室に話を聞いた。
――市中での感染防止のため、国内の基地などに停泊中の水上艦や潜水艦の乗員は上陸が制限されている?
「海上幕僚長、自衛艦隊司令官などの監督の下、基本的には各地域における市中の感染者数などの状況に応じて、地方総監部(横須賀、佐世保、呉、舞鶴、大湊)ごとの判断となります。不要不急の外出の自粛や手洗い、咳(せき)エチケット、アルコール消毒を徹底しているところです」
――現在、海外に展開している艦艇は?
「寄港地の感染状況には神経をとがらせています。補給の際も乗員の上陸は控え、水と食糧を積むだけにするということもありえると思います」
――もし航行中に感染者が出たらどう対応する?
「各艦には、国内では1~3名の看護師に当たる衛生員が乗船しており、海外派遣の場合はさらに必要に応じて医師免許を持つ医官が乗船し、医務室で対応します。PCR検査や抗体検査なども導入する体制を整えているところです。
患者の搬送が必要な場合はできるだけ隔離した上で、ヘリコプターや航続距離が約4700kmの救難飛行艇(US-2)を使った緊急搬送を行なうことになると思います。どこで感染者が出るかわかりませんが、人数と場所などによっては対応設備のある自衛隊の陸上施設への収容も含め、状況によって判断してまいりたいと思います」
河野太郎防衛大臣は、現在中東海域で情報収集任務に当たっている護衛艦「たかなみ」に代わって6月上旬に派遣される「きりさめ」について、ウイルス対策を万全にすると強調した上で、
「最悪の場合は戻ってくることも当然、最後の選択としてあろうかと思うが、そうしたことにならないようにしっかりと準備して送り出したい」
と述べた。米空母の悲劇が繰り返されないことを祈るのみだ。