『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、持続的なコロナ支援の財源として「炭素性」を提案する。(この記事は、6月8日発売の『週刊プレイボーイ25号』に掲載されたものです)

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総額31兆9114億円。安倍政権が雇用調整助成金の拡充策などを盛り込んだ第2次補正予算を閣議決定したのは5月27日のことだ。これで第1次補正予算と合わせ、コロナ対策の事業規模は200兆円超となる。

また、安倍政権は10兆円もの巨額の予備費を追加計上した。予備費は国会審議を必要とせず、内閣が独自判断で使途を決めることができる「つかみ金」である。

だが、コロナ不況はこれからが本番だ。これまでは非正規雇用の労働者や中小零細の飲食店などが甚大なダメージを被ってきたが、今後は自動車産業などをはじめとする製造業などを中心に大企業の業績も悪化が予想されている。

地方経済の痛みも深刻だ。先日、会話を交わした北海道のある農業法人経営者は「コロナ禍で来日予定の海外からの技能実習生が激減し、人手不足で作物の収穫や種つけができない」と悲鳴を上げていた。

コロナ支援は一度、二度の補正予算でお金をバラまけば、それで済むというものではもはやなくなった。日本経済の冷え込みがこれから本格化することを考えれば、今後も継続的に大規模な対策を打たないといけない。

そうなると、心配になるのが国の財政悪化だ。実際、当初9兆2000億円とされていた国の「基礎的財政収支」(国債費を除く税収で政策に必要な経費を賄えているかどうかの指標)の赤字は補正予算によるコロナ対策費の追加で、66兆1000億円にまで拡大する見込みだ。

今は赤字国債を日銀に買わせることで資金を手当てできているが、日銀の国債引受額はつい最近500兆円を突破したようだ。19年12月時点でも、国債総発行額の46.8%に達していたから過半となるのも時間の問題。政府の赤字を日銀に押しつけるやり方は、いずれ限界を迎えるだろう。

そこで、持続的なコロナ支援を可能とする新たな財源づくりが必要となる。その基本コンセプトは赤字国債の発行を減らし、歳入増で中長期的に必要となる格差対策に充てることである。

そのひとつとして本格的な「炭素税」の導入はどうだろうか? 石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じて税金をかける仕組みだ。政府は化石燃料の輸入時に石油石炭税をかけているが、その一部は「地球温暖化対策税」として徴収することになっている。

この石油石炭税を10倍超の規模に拡充して年間10兆円程度の税収を生む「炭素税」へと衣替えするのだ。併せて原発由来の電力にも課税すれば再生可能エネルギー促進の動きが強まるというメリットがある。

従来の石油石炭税は広くエネルギー関連予算に使われていたが、炭素税として増額された分すべてをコロナによる困窮者、あるいはコロナ禍で拡大した格差解消のために使う。これによりガソリン価格などが上がるが、集まった年間10兆円の税金は全額弱者に還元することにすれば、納税者の理解も得られるはずだ。

そのうちの一部を「地方炭素税」として自治体に配分すれば、自治体の独自財源となり、地方の状況に合わせた弱者支援策を中長期的に実施できる。

ただの一時しのぎでなく、国の財政悪化を抑えて持続的なコロナ対策・弱者支援を可能とする「知恵ある税制」は炭素税以外にもあるはず。それを今こそ国民合意の下につくるべきだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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