『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、経産省の解体を提言する。
(この記事は、6月22日発売の『週刊プレイボーイ27・28合併号』に掲載されたものです)
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1次補正予算2兆3000億円の持続化給付金事業をめぐり経済産業省が、トンネル団体を通して電通に丸投げした件は、電通の中抜き疑惑も相まって同省の仕事にあらためて疑惑の目が向けられる結果になった。
国民から酷評されたアベノマスクも、本はといえば、経産官僚の発案だったと聞く。
思えば経産省の黄金期は護送船団方式などの産業政策で、日本の高度経済成長を実現してきた1980年代初頭頃まで。それ以降はこれといった新しい産業政策を打ち出せず、失敗続きで地盤沈下を続けてきた。
その象徴が日本企業の国際競争力の低下だ。自動車はトヨタ1強で競争力を保っているものの、家電、液晶、半導体、太陽光など、日本のお家芸と呼ばれた主要産業が軒並み国際競争から脱落してしまった。
安倍政権下でも、経産省が主導した産業政策といえば、「クールジャパン」「プレミアムフライデー」「おもてなし規格認証」など、小粒なお祭り騒ぎのメニューだけだ。
はっきり言おう。経産省はもはや、有効な産業政策を打ち出せる組織ではない。ならば、経産省解体を前提に、その業務を整理・再編することを考えてみてはどうだろう?
まず、経産省の仕事の一丁目一番地である産業政策の失敗は、日本経済のIT化の遅れに顕著に表れている。ITを活用した各国のコロナ対策と比べて、その遅れを痛感した国民は多かったはずだ。
スピーディな感染者情報発信や支援金給付など、他国ができることが日本ではできない。これは、政府が遅れているだけでなく、実は、経団連企業も世界標準で見れば、とんでもなく遅れているからだ。
この遅れを取り戻すために、デジタル化推進省を新設し、そこに経産省の商務情報政策局と総務省のIT担当部署を統合するべきだ。総務省には旧郵政省の通信事業部門があり、経産省とそっくりのITプロジェクトを行なうなど、二重行政の無駄が甚だしい。その弊害も解消できる。
もうひとつの経産省の屋台骨、資源エネルギー庁。世界ではエネルギー政策は地球温暖化防止など、環境問題とセットで論じることが常識だ。資源エネ庁の大部分は環境省に統合すべきだ。
さらに、貿易交渉も再編対象だ。貿易交渉は経済財政担当大臣が行なうケースが増えているが、特命大臣なので足腰となる官庁がなく、各省からスタッフをかき集めて外国とのタフな交渉に当たっているのが実情だ。
米中対立が激化するなか、今後、ますます二国間、あるいは多国間の貿易交渉が重要になることを考えれば、USTR(米国通商代表部)のような専門省庁を新設し、そこに経産省・農水省・外務省の貿易交渉部署を統合してパワーアップすることが望ましい。輸出管理は、内閣の国家安全保障局に統合する。
こうしてスリムになった経産省には自動車・鉄・化学などの産業政策部署が残るはずだ。中小企業庁も含めてそれを農水省と合体させ、農水商務省あるいは産業省のような省庁に改編すれば、経産省解体は完成する。農林水産業も「産業」として発展させるなら、両省の産業政策部門一体化は理にかなっている。
このところの経産省の堕落ぶりは目を覆うばかりだ。OBの私が主張するのは心苦しいが、経産省のあり方を抜本的に考え直すにはやはり解体しかない。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中