日本をダメにしているのは経産省かもしれない――。期待できない経済の成長戦略、「クールジャパン」などの的外れな産業振興メニュー、そして「アベノマスク」に代表される首相の"残念なコロナ対策"。
これらすべての元凶はこの省にある。『週刊プレイボーイ』で『古賀政経塾!!』を連載中の元経産官僚の古賀茂明(こが・しげあき)氏が「経産省の解体&再編」論をもって古巣への引導を渡す!
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■どうも変な安倍"経産内閣"
官邸や内閣府の重要ポジションに経済産業省関係の人物が登用されることが多い安倍政権は、しばしば"経産内閣"と呼ばれる。
その象徴が安倍首相をして、「すごく頭がいいんだよ」と言わしめた今井尚哉首相補佐官(1982年入省)だ。その豪腕ぶりを全国紙の官邸担当記者がこう証言する。
「17年9月に衆議院選挙の対策として、官邸が『人生100年時代構想』という看板政策を掲げ、3~5歳児の教育無償化をぶち上げたときのことです。
その財源として今井さんは消費税の使途拡大を提唱、財政再建が遠のくと渋る財務省の幹部を官邸に呼びつけ、無理やりのませてしまったのです。最強官庁の財務省が白旗を揚げるシーンを見て、経産省の影響力はここまで強大になったのかと驚きました」
今井補佐官以外にも、官邸の広報役として首相会見を仕切る長谷川榮一補佐官(76年入省)、働き方改革などをまとめる一方で、タレントの菊池桃子氏と電撃婚をして話題になった新原浩朗(にいはら・ひろあき)経産省経済産業政策局長(84年入省)、首相演説文のほとんどを作成している佐伯耕三首相秘書官(98年入省)ら、多くの経産省関係者が「官邸官僚」として安倍政権をコントロールしている。
なぜ、安倍政権はこれほどまでに経産官僚を重用するのか? 経産省OBの古賀茂明氏がその理由をこう指摘する。
「安倍首相は憲法改正や集団的自衛権の行使、武器輸出など、タカ派的な政策には持論がありますが、経済政策についてはノーアイデア。ただ、政権を維持するために人々の耳目を集め、わくわくさせる『パンとサーカス』的な経済政策が必要だと考えていました。
そんな首相にとって、フットワークよく企業などから情報を集め、中身がなくても目新しく映るアイデアを提案する訓練を積んできた経産官僚は、相性がよかったのでしょう」
ただ最近、経産内閣の面々が繰り出す政策は不調だ。特にコロナ関連では失態続き。
「評判の悪かった一斉休校を主導したのは今井補佐官、『国民の不安などパッと消える』とアベノマスク配布を進言したのは佐伯秘書官と報じられています。さらに持続化給付金事業をめぐり、前田泰宏中小企業庁長官とトンネル社団法人を通じて業務委託を受けた電通との癒着疑惑も浮上した。
これらのことから安倍政権の稚拙なコロナ対応の元凶は経産省ではないかと声が上がるまでになっています」(前出・官邸担当記者)
■日本の成長にとって経産省は邪魔?
前出の古賀氏はさらに踏み込んで"経産省の罪"についてこう断言する。
「そもそも経産省はコロナ関連の政策のみならず、"本分"の産業政策でもロクな手を打てていない。
経産省の政策が有効だったのは日本企業に体力がなく、国が手厚く産業を保護する必要があった70年代まで。それ以降は日本企業も国際競争力をつけたため、保護政策は不要となりました。ところが、経産省は今も旧態依然とした産業振興政策を採用している。
負け組企業を束ねて『日の丸』プロジェクトを作り補助金を出す。その見返りが天下りポスト、なんてことを経産省は今も続けている。でも、それでは国境を超えて勝ち組先端企業が合従連衡する世界では競争には勝てません」
その例として古賀氏が挙げるのが現在、経営再建中の「ジャパンディスプレイ(JDI)」だ。JDIは2012年に日立製作所、ソニー、東芝の液晶パネル部門が統合した「日の丸液晶」。
当時、中国・韓国のメーカーに押されまくっていた液晶パネル分野の国際競争力を高める目的で、経産省と同省が所管する産業革新機構(現INCJ)の主導の下、結成された。
「しかし、業績不振のなかで会計不正も発覚。今なお赤字続きで先が見えない状況です。経産省は早い段階で生産性、収益性共に低い"終わっている企業"だったJDIを、『日の丸』メーカーだからと税金で保護し続けたのです。
こうした失敗は枚挙にいとまがありません。ハッキリ言って経産省は日本経済の足を引っ張っています。家電、液晶、半導体、太陽光パネルなど、かつては世界のトップシェアを誇っていた主要産業の競争力が失われ、今や世界トップ10に食い込むような企業はトヨタなど、数えるほどになってしまったのも、経産省のヘタな介入と無策が大きな原因になっているといっていい」
この指摘に、経産省の管理職キャリアもこう同意する。
「イノベーションにつながるような骨太の産業政策を出せずにいるのは事実。特に安倍政権になってからはその傾向が顕著です。出てくる政策は『プレミアムフライデー(月末の金曜日の退社時間を早め、飲食消費などを促す)』『おもてなし規格認証(サービス品質の見える化)』『クールジャパン戦略』など、小粒でイベント的なものばかりで、どれも成功しているとは言い難い。
官僚も政策で国に貢献するというよりは、官邸を満足させて高評価を得ようとする"忖度(そんたく)型"が増えているようで、どうにもやりきれません」
■古賀茂明氏が熱弁!「経産省解体論」
古賀氏は「今の経産省を解体して、まったく新しい経済再活性化策を打てる体制へと再編すべき」と主張する。その構想のポイントを古賀氏に解説してもらった。
ポイント(1)「産業省」
「まず『経済産業政策局』『製造産業局』『産業技術環境局』は大幅に整理縮小した上で、新設の『産業省(仮)』として再編する。ここには商務情報政策局のIT関連以外の部門や、中小企業庁も統合するのが望ましいと思います。
『経済産業政策局』は各産業の政策立案や調査を扱う部署ですが、もはや無用な存在です。例えば、同局には『産業創造課』という課があり、そこはベンチャーのためにファンドを提供するのが主な業務なのですが、そんなものは民間のファンドのほうが効率的にこなせます。
官民ファンドは失敗ばかりで、経産省に期待するのは二流ベンチャーだけ。ここでは一例だけ挙げましたが、それ以外の課も日本の成長のためにやるべき仕事がほとんどないのが実情です。
もちろん最低限の産業政策は必要です。なので、『製造産業課』や『サービス産業課』といった3つか4つの大きなセクションに整理し、新設の『産業省』に再編すればよいでしょう。また、農林水産業も重要な産業と見なして農水省の大部分もこの産業省と合体させるべきです」(古賀氏、以下同)
ポイント(2)「日本版USTR」
「外国との通商に関する交渉を担当する『通商政策局』は、外務省や農水省の貿易交渉部署と共に、新設の『通商交渉部(仮)』に統合します。
今、経産省にとって重要度が増している数少ない仕事のひとつが通商交渉です。ただ、この交渉セクションは外務、農水などにもあり、政府の交渉パワーが分散された形になっています。これらを統合して強化すべきです。
参考にすべきモデルはアメリカの『USTR(米国通商代表部)』。これは大統領府内の機関で、通商交渉や外交に関する強い権限を持っています。これをまねて、通商交渉の専門機関『通商交渉部』を内閣の常設部門として新設するんです。
また、外国との経済協力を推進する『貿易経済協力局』は外務省の経済協力部門に統合し、安全保障と密接な関連を持つ『貿易管理部』は内閣官房の国家安全保障局に新設された経済部に統合して整理すべきでしょう」
ポイント(3)資源エネルギー庁を環境省へ
「資源エネルギー庁の主力をなすエネルギー部門ですが、世界ではエネルギー政策は地球温暖化など環境問題とセットで論じるのが常識。なのでエネルギー部門を環境省に、資源部門を産業省に統合する。
新しい環境省は、ポストコロナで地球温暖化など環境問題への対応を進めながら、同時にそれを経済再生の起爆剤とする『グリーンリカバリー』の主導役となるのです」
ポイント(4)「DX省」
「経産省と農水省を統合して産業省にすると、省がひとつ減ります。その分のリソースで『DX(デジタルトランスフォーメーション)省』を新設して、経産省と総務省の関連部門を集約し、大臣から幹部まで民間の高度プロフェッショナルを集めます。
『DX』は、IT化よりさらに進んで、人々の価値観や生活そのものを根底から変える「デジタル変革」のこと。コロナ対応でも、給付金ネット申請もろくにできず、接触確認アプリの本格稼働も遅れるなど、日本のIT化が世界より何周も遅れていることが露(あらわ)になった。
そのリカバリーを新設の『DX省』が主導すれば、環境と並んで、アフターコロナにおける日本経済再生のもうひとつの柱になるはずです」
これまで何度も省庁の再編は行なわれてきたが、ここまで機能を分けて経済成長に狙いを定めた改革はなかった。この経産省解体と再編が実現すれば、日本には明るい未来が待っている――!