金正恩委員長(写真)も出席した7月25日の労働党政治局非常拡大会議では、防疫を「最大非常体制」とすることも決定

7月25日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が労働党政治局の非常拡大会議を招集。韓国から南西部の開城(ケソン)市に戻った再入北者(脱北した後、再び北朝鮮に帰国した住民)が新型コロナに感染している疑いがあることを理由に、開城市のロックダウンを断行したと宣言した。

これまで「コロナ感染者ゼロの清浄国」と喧伝(けんでん)してきた北朝鮮が、初めてコロナ発生を認めた形になるが、韓国紙東京特派員は「この発表はマユツバだ」と首をかしげる。

「普通に考えれば、北朝鮮でコロナ発生の可能性が高いのは、中国との人的・物的交流が盛んな北部の新義州(シニジュ)市あたり。ところが北朝鮮は、南北共同事務所を爆破するなど韓国との往来がすっかり途絶えた38度線沿いの開城市に"最初のウイルス"が持ち込まれたと強弁し、都市封鎖にまで踏み切ったわけです。

また、24歳の元脱北男性が実在し、今月再入北したというのは事実ですが、この人物が韓国・ソウル居住中にコロナに感染したという情報もない。北朝鮮には何か別の狙いがあるとしか思えません」

実際、WHO(世界保健機関)は、7月中旬までに中朝国境地帯で働いていた北朝鮮住民1211人がPCR検査を受け、696人が隔離されていると報告している。北部がそんな状況であるなら、「たったひとりの再入北者が初めて北朝鮮にウイルスを持ち込んだ」という主張には無理があると言わざるをえない。

では、金正恩委員長の狙いは何か? 北朝鮮事情に詳しいアジアプレスの石丸次郎氏がこう指摘する。

「最近の内部情勢から考えて、すでにコロナ感染が発生していたことは間違いないとみています。再入北者を通じて韓国からウイルスが持ち込まれたと喧伝しているのは、国際社会から大々的にコロナ防疫支援を受けるための戦略でしょう。

防疫支援なら、北朝鮮への経済的援助を禁じる国連の制裁決議にも触れません。その上、"発生源"である韓国への反感をあおり、反韓国、反脱北キャンペーンで国内の引き締めも図れます」

となると、もうひとつ気になるのは、コロナ第1号とされた24歳の再入北男性の処遇だ。やはりウイルス拡散の"戦犯"として、厳しく罰せられることになるのか?

「いえ、むしろ当面は特別待遇を受けるでしょう。『社会主義朝鮮が懐かしくなり、金正恩委員長の懐(ふところ)に戻ってきた英雄』として記者会見に招かれる可能性もありますし、『韓国での生活の過酷さ』『脱北行為の虚しさ』などを伝える講師役として、全国を講演して回ることになると考えられます」(前出・韓国紙東京特派員)

ただし、その特別待遇も一時的なものにすぎないという。

「1、2年は国家からさまざまな配慮を受けるでしょうが、その後の北朝鮮での暮らしはラクではないでしょう。コロナ感染が収束して利用価値がなくなったと判断されれば、脱北の過去を問われ、当局の厳重な監視下でずっと暮らさなければならないはずです」(前出・石丸氏)

感染防止用のマスク、ゴム手袋、さらにはPCR検査薬まで底を突いたとの報道もある北朝鮮。それでも、素直に国際社会にSOSを求めるのは難しいのか......。