将棋や囲碁に続き、「空戦」でもAI(人工知能)に完敗――。
8月18日から20日に米国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)が主催したバーチャル空中戦大会「アルファ・ドッグファイト・トライアルズ」。
AI同士のリーグ戦とトーナメントでロッキード・マーティンやボーイングなどを抑え勝ち進んだヘロンシステムズ社のAIは、F-16戦闘機のバーチャル空中戦で人間パイロットと対戦し、5戦全勝の圧勝劇を見せた。
AIの挑戦を受けたのは、米空軍兵器学校を卒業し、総飛行時間2000時間を超える大ベテラン、パイロットネーム"バンガー"。米空軍協会の発表によれば、彼はこう語っている。
「AIは、米空軍が通常の訓練で設けている、攻撃時の高度差や攻撃角などの制限にまったくとらわれていなかった。1回目の空戦でこれに気づき、2回目以降は私もより攻撃的に行動し、生存時間も徐々に延びていった。しかし、AIは『OODAループ』(観察→適応→決定→行動の意思決定を繰り返すこと)が"ナノ秒レベル"で、人間よりも格段に速い。その差も出たように感じた」
とはいえ、対戦時の設定は現実にF-16戦闘機の機体や人間のパイロットが耐えられる範囲の動き方に制限されており、ルールは平等だ。『図解 戦闘機の戦い方』の著者で、軍事アナリストの毒島刀也(ぶすじま・とうや)氏はこう分析する。
「AIの判断・思考のベースとなる膨大なデータやパターン認識に偏りや欠落があればそこを突けます。しかし今回はその"穴"を見いだすことができなかったか、または穴がなく、逆に人間のパイロットは訓練や規則などで染みついた行動パターンを突かれて完敗したということでしょう。負けるのは仕方ないとしても、5-0という結果は、人間パイロットのプライドを打ち砕くショッキングなものだったと思います。
パイロットは人である以上、どうしても勝つことより『生き残ること』が心理的な最優先事項となります。一方、AIは勝つ確率が少しでも高ければ、いくらリスキーな手でもお構いなしに攻める。
先日、将棋の王位戦の第4局で、AIは推奨したものの従来の常識ではリスキーとされる『8七同飛成』を藤井聡太二冠が繰り出して勝利したことを想起させます。日本的な言い方をすれば『死中に活を求める』という感じでしょうか」
DARPAはAIを無人作戦機に搭載して空戦に活用する「ACEプロジェクト」を進めており、来年の夏には実機を使って有人機と無人機の対戦を行なう予定だという。DARPAの戦術技術局を率いるダン・ジャボセク大佐は、今回の結果についてこう話している。
「特定条件のシナリオで勝っただけで、すぐにAIが人間を上回る空戦の能力に到達したとは思っていません。空戦で戦えるAIの実用化への長い道のりの一歩にすぎないのです。ただし、デジタル環境から現実の世界へ移行する上で重要なジャンプです」
ロブ・コーエン監督の近未来戦闘機アクション映画『ステルス』(2005年公開)では、有人機とAI搭載無人機が戦うシーンが見せ場だった。現実世界でもそれが間もなく実現しそうだが、AIは人間が思っている以上に手ごわいのかもしれない。