『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、自民党の菅義偉総裁が打ち出した「デジタル庁(仮称)」の公約を「生煮えすぎる」と批判する。

(この記事は、9月14日発売の『週刊プレイボーイ39・40合併号』に掲載されたものです)

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自民党総裁選で菅義偉(すが・よしひで)氏が打ち出した「デジタル庁(仮称)創設を検討」という公約が注目を集めている。

日本が今後も国力を維持するためには、IT化やデジタル化の推進が欠かせない。しかし、コロナ対策の雇用調整助成金のオンライン申請の混乱などに見られるとおり、行政のデジタル化は欧米先進国はもちろん新興国にも大きく後れを取っていることが露(あら)わになった。

そこで「複数の役所に分かれる政策を強力に進める」ために「デジタル庁」を創設し、政府自らがデジタル化を強力に推し進めたいという。これは日本の成長戦略にも通じる公約であり、人々が注目するのは当然だろう。

以前、私は『週刊プレイボーイ』の特集で、経産省と農水省を統合して、その余ったリソースで「DX(デジタルトランスフォーメーション)省」を創設すべきだと提案した。今回、菅長官がデジタル庁構想を提唱したので、「古賀さんと同じですね」と言う人もいる。しかし、その評価は完全に間違っている。なぜか。

まず、そもそも「デジタル庁」というのがダメだ。本気で行政のデジタル化を断行しようとすれば、「庁」でなく「省」にしないといけない。省の外局にすぎない庁では予算、権限もたかが知れており、とてもではないが政府のデジタル化という大事業は遂行できない。

おそらくデジタル庁の設置は役人の作文だろう。デジタル省だと省がひとつ増えてしまうため、ほかの省をひとつ潰せという議論になる。それは省庁再編につながり、官僚の利権が危機に瀕(ひん)するかもしれない。そこで、デジタル庁で大ごとになるのを防ごうという狙いだ。

これでは、これまでのIT推進体制にちょっと毛が生えた程度にすぎない。おそらくデジタル庁には各省からの出向者が派遣され、自省の利権維持を図ろうとするはずだ。

その結果、デジタル庁は、各省のIT関連予算要求を取りまとめて財務省と交渉し、その結果を発表することと、各省のデジタル化政策をホチキスして「デジタル化推進戦略」のようなものを発表するだけになる可能性も高い。

さらに、菅氏の正式な公約には、「複数の役所に分かれている政策を強力に進めるため、デジタル化・リモート化を力強く進める体制を構築」としか書かれていない。具体的に何をしたいのかが見えないのだ。 

菅氏が行政のデジタル化推進を本気で打ち出したいのなら、政策ブレーンの官僚らがデジタル庁設置のペーパーを示した時点で、「これではダメだ。『直ちにデジタル省を設置』にしろ」と言うべきだった。

私が菅氏の立場なら、省でなく庁とした官僚の意図を見抜き、その場で差し替えを指示する。それをせずにデジタル庁設置の公約をぶち上げたのは、菅氏がこの政策を小手先の人気取り政策と見なしているからではないか?

菅氏の公約は生煮えすぎる。「来年度初めにデジタル省を創設し、民間人の大臣をトップに置く。職員の過半も民間出身者とする」というくらいのことをなぜ言えないのか。

デジタル化は官僚にはできない。世界に通用する専門家にデジタル化を任せ、幹部に外国人登用も行なう。そのための法改正を来年初めの通常国会に提出する。それくらいの勢いで進めなければ、日本のデジタル化の遅れは永遠に挽回できないだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中

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